「ホラーは“開放してくれる”ジャンル。それを探求することを心から楽しんだ」
―この不穏な物語を、どのように子供たちに伝えたのですか?
子供たちを座らせて頭から説明しても、情報量が多すぎることは分かっていました。代わりに、彼らの疑問に正直に答えることにしんました。準備段階で、少しずつ自分の演じるキャラクターに何が起こるのかを理解していってもらったのです。もちろん、親御さんには役をオファーする前に、作品について全て知ってもらっていました。
―では、子供たちには「愛犬が死んだ時を思い浮かべて泣いてみて」といったテクニックは使わなかったのですか?
彼らはプロの俳優がやるように感情を作っていました。プロの技術を習得してもらうため、私たちは長い時間をかけて一緒に動いたんです。キャラクターに必要な感情を話し合い、ワークショップを行いました。“怖いもの”のイメージを持ち寄って、リアクションを意識してもらうんです。例えば「怖い時の呼吸の速さを感じてみて」といったように。撮影日にも、その方法を用いました。
―ホラーというジャンルに、どこまで踏み込もうと思っていましたか?
純粋なホラーを描くつもりはありませんでしたし、執筆中にホラーの様式を使おうとも思っていませんでした。ヒューマンドラマであれ詩的なものであれ、サスペンスであれ、自分が好きかどうか、本当に面白いと思っているかどうか、という点に主軸を置いています。そうすれば、筋の通った物語になるからです。とは言っても、私は大のホラーファンで、“高尚なジャンル”とレッテルを貼られることには抵抗があります。ホラーが必ずしも高尚である必要はないと思うからです。
純粋なホラーで面白い作品は世の中にたくさんあります。もし私がホラー映画を撮ったと言われたら、それは褒め言葉として受け止めます。“怖く撮りたい”と思っていましたから。ホラーは視覚的な進行や象徴的な表現を作品の端々に必要とします。そのため、私たちを一人の映画製作者として開放してくれるジャンルなのです。それを探求することを心から楽しみました。
「ホラー映画はノルウェーではそれほど人気はなく……」
―日本ではアリ・アスター監督の『ミッドサマー』や、アイスランドを舞台にした『LAMB/ラム』など北欧を舞台にしたスリラーが立て続けに公開されて人気ジャンルとなっているのですが、北欧やノルウェーでも、そういった作品は人気なのでしょうか。また、ジャンル映画は北欧の映画界ではどういった位置づけになりますか?
北欧の中でも国によって違うんですが、ノルウェーでは犯罪ものが人気で、特にテレビは犯罪ドラマが大人気です。殺人が起きて、森の中で発見された身元不明の女性の死体が……といった類の話は、みんな大好きですね。
ホラー映画はノルウェーではそれほど人気はなく、『ミッドサマー』や『LAMB/ラム』もそれほど注目されませんでした。なぜかはわかりませんが、もしかしたら独自の世界観があって、観る人を選ぶからかもしれません。ノルウェーで人気が出るには、もっと一般大衆に訴えるものじゃないといけない。残念ですけれどね。ホラーは革新的なことが色々できる面白いジャンルだと思いますから。
『イノセンツ』は2023年7月28日(金)より新宿ピカデリーほか全国公開