これは“映画”ではなく“現実”
主人公アオイを演じるのは、昨年『すずめの戸締り』に出演で話題を呼び、本作が映画初主演となる花瀬琴音。東京出身の彼女が、撮影の1ヶ月前から現地で生活し、“沖縄で生まれ育った若者”アオイを体現する。アオイの友人、海音には映画初出演となる石田夢実、夫のマサヤには『衝動』(21)の佐久間祥朗が起用され、花瀬と同様に撮影1ヶ月前から現地入り、沖縄・コザで実際に体感した生活感溢れるリアルな演技を披露している。監督は、長編デビュー作『アイムクレイジー』(19)で、「第22回富川国際ファンタスティック映画祭」NETPAC賞(最優秀アジア映画賞)に輝いた工藤将亮。
「嗚咽するほど泣いてしまいました。覚悟が必要ですが見るべき作品です」「必ず心に残る映画」「貧困問題への怒りや悲しみ、そしてやるせなさが心に浮かんでくるのを感じた」「本当にこれは映画(フィクション)でなく現実(ノンフィクション)だと思います」「多くの人の目にこの作品が届き 少しでも未来が変わることを信じたい」(映画公式感想キャンペーンより)など、6月に沖縄で先行公開され、わずか3館の上映でミニシアターランキング3位にランクイン、7月7日に待望の全国公開を迎えると、再びミニシアターランキング3位に返り咲き大ヒットを記録。また、「少女が抱え込む悩み、痛み、現状の生活と友人への想いの葛藤を演じ切っています」「体当たりの演技に圧倒されました」と理不尽で不寛容な社会に追いつめられていく17歳のアオイを演じた花瀬琴音の熱演を絶賛する声も数多く発信されている。
17歳の少女と愛する息子の非情な別れ
解禁されたのは、アオイが幼い息子・健吾(長谷川月起)と引き離されてしまうシーン。働きもせず酒に溺れるに夫マサヤ(佐久間祥朗)と健吾との生活を支えるために年齢を偽ってキャバクラで働いていたアオイ。だが、突然のガサ入れで警察沙汰となり働けなくなり、いざという時のために貯めていた“へそくり”も夫に持ち出されてしまう。拍車をかけるかのようにマサヤが起こした暴力事件で多額の示談金が必要となってしまう。仕方なく義母の由紀恵(松岡依都美)に健吾を預けたアオイは、心身を削りながら生活費を稼いでいた。
映像は、疲れ果てたアオイが仕事から帰宅した場面から始まる。道には合羽を着た男が立ち、家の中を見知らぬ人々が伺っている。ただならぬ気配に慌てて玄関に駆け寄ったアオイが「なにや?」と問う。奥からひとりの女性が健吾を抱いて現れると、「新垣さん、健吾君、一旦預かりましょうね」告げる。「なんでよ?」と戸惑うアオイの横を、児童相談所の職員たちは息子を連れて行く。その姿を玄関に現れた義母の由紀恵が言葉なく見つめている。
雨が降り始め傘を差した職員たちを追ったアオイは、「ちょっと待ってよ。いいよ。大丈夫。ねえ待って」と健吾に手を伸ばす。さらに「待って、健吾」と追いすがるが「大丈夫だから」と2人がかりで止められてしまう。その視線の先には健吾が大好きなぬいぐるみが見える。「健吾、待ってよ。ねぇ、待ってよ」心の支えである息子と離れ離れになってしまうアオイの悲痛な叫びが心を揺さぶる内容となっている。
ただ「普通に生きたい」と願いながらも、社会の苛酷な現実に追いつめられ、最愛の息子まで失ってしまうアオイは、どんな未来を選ぶのか。沖縄から日本、そして世界へと放たれる強烈なメッセージを、ぜひ劇場で受けととめてほしい。
『遠いところ』は全国劇場で絶賛公開中