過酷な場所で自らのアイデンティティを貫く姿が胸を打つ『インスペクション ここで生きる』
ゲイであることで母に捨てられ、16歳から10年間ホームレス生活を送っていた青年・フレンチ。どこにも居場所を許されず、自らの存在意義を追い求める彼は、生きるためのたったひとつの選択肢と信じて海兵隊への入隊を志願する。だが、訓練初日から教官の過酷なしごきに遭い、さらにゲイであることが周囲に知れ渡るや否や激しい差別にさらされてしまう……。
理不尽な日々に幾度も心が折れそうになりながらも、その都度自らを奮い立たせ、毅然と暴力と憎悪に立ち向かうフレンチ。孤立を恐れず、同時に決して他者を見限らない彼の信念は、徐々に周囲の意識を変えていく。
主人公であるエリス・フレンチを演じるのは、俳優・歌手として活動し、2019年のトニー賞では別々のパフォーマンスで2つの部門(演劇主演男優賞/ミュージカル助演男優賞)にノミネートされるという、史上6人目の快挙を成し遂げたジェレミー・ポープ。本作では第80回ゴールデングローブ賞で主演男優賞(映画・ドラマ部門)にノミネートされたほか、世界各国で高い評価を受けた。
また、「21世紀の最重要バンド」と評されるアニマル・コレクティヴが音楽を担当。逆境に屈せず前を向く主人公フレンチの姿をエモーショナルに彩っている。
2023年8月4日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ、新宿武蔵野館ほかにて全国公開
ロシアのウクライナ侵攻を予見させる衝撃作『世界が引き裂かれる時』
本作は、2014年にウクライナのドネツク州で実際に起こったマレーシア航空17便撃墜事件を背景とした戦争ドラマ。
ウクライナとロシアの国境地帯、小さな家で暮らす出産を間近に控えた妻とその夫。明け方、夫婦の家が突然襲撃され、大きな穴があいてしまった。これは戦争なのか? 妊娠中の妻は家を離れようとせず、夫は親ロシア派分離主義者の友人から組織に誘われるも、はっきり結論を出せないでいる。その間に、親ロシア派と反ロシア派双方の対立は次第にエスカレートし、事態は破局に向かっていく……。
ロシアのウクライナ侵攻が始まる直前の2022年1月、第38回サンダンス映画祭ワールドシネマ部門で監督賞を受賞し、続く第72回ベルリン国際映画祭でパノラマ部門エキュメニカル賞を受賞、さらには第95回アカデミー賞最優秀国際長編映画賞ウクライナ代表にも選出されるなど、世界各国で41冠の栄誉に輝く。
6月17日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
不条理な迫害の歴史の中で、愛と自由の本質を見つめる『大いなる自由』
第二次世界大戦後のドイツ。実際に存在した男性同性愛を禁じた刑法175条の下、ハンスは自身の性的指向を理由に繰り返し投獄される。同房の服役囚ヴィクトールは「175条違反者」である彼を嫌悪し遠ざけようとするが、腕に彫られた番号から、ハンスがナチスの強制収容所から直接刑務所に送られたことを知る。
己を曲げず何度も懲罰房に入れられる“頑固者”のハンスと、長期の服役によって刑務所内での振る舞いを熟知しているヴィクトール。反発から始まった二人の関係は、長い年月を経て互いを尊重する絆へと変わっていく。
2021年カンヌ国際映画祭ある視点部門審査員賞受賞、2022年アカデミー賞国際長編映画賞オーストリア代表作品。あまりに不条理な迫害の歴史の中で、愛と自由の本質を見つめた、静かな衝撃作。
2023年7月7日(金)より「Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下」ほか全国ロードショー