生存者が払う犠牲を描いた背景――監督の幼少期の思い出
『レインマン』(1988年)でアカデミー賞監督賞、ベルリン国際映画祭金熊賞に輝いたバリー・レヴィンソン監督が、アウシュヴィッツの知られざる真実を描いた背景には、自身の経験が関係していた。幼い頃、ホロコーストを生き延び心に傷を負った客人が自宅に2週間ほど滞在していたことがあったそうだ。
レヴィンソン監督は初めて本作の草稿を読んだ際、幼少期の出来事が一気に蘇ったと明かす。
はるか昔、苦悩を抱えている人の声を聞いていた夜のことがフラッシュバックしたよ。当時は彼がなぜ苦しんでいるのか分かっていなかった。彼の過去を知ったのは、それから何年も経ってからだったんだ。
続けて監督は、「収容所から戻ってこられた人の多くは生涯被害者であり続けたんだ。今では<PTSD>として知られている症状に苦しみ続けた。この映画は『生存者が払う代償とは?』を問題提起しているんだ」と、本作を通して戦争を生き抜いた者にしか知りえない真実や苦しみ、心の葛藤を発信したいと胸の内を語った。
そしてPTSDを抱える父と交流が少なかったという原作者アランは、「執筆を終えて父が耐えなければならなかったものを直接知り、なぜ父があんな人になったのか、理解することが出来ました。私は、父を愛しています」 と話し、父の半生を綴った小説を書き上げたことで父への愛を再認識したようだ。
『アウシュヴィッツの生還者』は2023年8月11日(金・祝)より新宿武蔵野館ほか公開
『アウシュヴィッツの生還者』
1949年、ナチスの収容所から生還したハリーは、アメリカに渡りボクサーとして活躍する一方で、生き別れになった恋人レアを探していた。レアに自分の生存を知らせようと、記者の取材を受けたハリーは、「自分が生き延びた理由は、ナチスが主催する賭けボクシングで、同胞のユダヤ人と闘って勝ち続けたからだ」と告白し、一躍時の人となる。だが、レアは見つからず、彼女の死を確信したハリーは引退する。それから14年、ハリーは別の女性と新たな人生を歩んでいたが、彼女にすら打ち明けられないさらなる秘密に心をかき乱されていた。そんな中、レアが生きているという報せが届く──。
監督:バリー・レヴィンソン
出演:ベン・フォスター ヴィッキー・クリープス
ビリー・マグヌッセン ピーター・サースガード
ダル・ズーゾフスキー ジョン・レグイザモ
ダニー・デヴィート
制作年: | 2021 |
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2023年8月11日(金・祝)より新宿武蔵野館ほか公開