“大人のラブロマンス”に世界が熱狂
絶賛公開中の映画パク・チャヌク監督最新作『別れる決心』より、“これを読めば2回目以降の楽しみ爆上がり7大ポイント”を大公開。本作は、一癖も二癖もあるセリフが話題だが、そのほかにも本作の魅力のひとつでもある舞台装置、衣裳、編集、小道具など細部へも監督のこだわりは徹底されており、観るたびに新たな発見をもたらしてくれる仕掛けを徹底解説。
本年度のアカデミー賞国際長編映画賞部門の韓国代表に選出、カンヌ国際映画祭コンペティション部門で監督賞を受賞した本作は、パク・チャヌク監督(『オールド・ボーイ』『お嬢さん』)がエロスもバイオレンスも封印して挑んだ“大人のラブロマンス”に世界中でリピーターが続出。韓国では公開後に脚本集がベストセラー1位を獲得するなど異例の大ヒットを記録。BTSのRMは5回も鑑賞するほどハマっていることが話題となっており、BTS公式YouTubeでは本作の映像を使ったミュージック・ビデオも公開されている。
※本記事はネタバレに抵触しますので映画鑑賞後にご覧いただくのをお勧めいたします。
巨匠パク・チャヌクの天才性と変態性が炸裂した超絶技巧
“刑事と容疑者”という、惹かれあってはならないもの同士の禁断の愛を描いた本作は、過激なラブシーンは一切なく、さらに言葉の壁がもどかしさを掻き立て、なんともロマンティックでエロティックだ。癖のあるセリフが話題で、「愛してる」という言葉を使わないラブストーリーという監督らしい変態性がここにも表れている。2回目以降の観賞を検討している方へ、本作をより楽しむための監督のこだわりポイントを紹介したい。
1、全体を通して貫かれる対比構造
本作では、刑事と容疑者という禁断の愛が描かれているが、言葉の壁や“愛”という抽象的なものを描いているため、「曖昧さ」が物語のミステリアスな雰囲気やサスペンス要素を膨らませてくれている一方で“対比”がふんだんに盛り込まれている。舞台となる“海の町”と最初の事件が起きる“山”。そしてへジュンの妻・ジョンアンは原子力発電所で働く理系人間なのに対し、ソレは孔子の言葉を引用するような文系人間。煙草を嫌うジョンアンに対し、煙草を好むソレ。など多くの対比構造が盛りだくさん。
2、へジュンとソレの類似性
へジュンとソレが対面して最初の事情聴取のシーン。ソレが「夫はどんな姿ですか?」と尋ねると、へジュンが「言葉で説明しますか?それとも写真で?」と返す。ソレは「言葉」と言うが、すぐに「写真」と言い直す。この時に注目してほしいのがへジュンの表情だ。最初の「言葉」と言った時は少し落胆したような表情をする。「写真」と言い直すと少し嬉しそうに写真を見せる。そして「あなたは僕と同じく、言葉ではなく写真を選ぶタイプだと思った」と告げる。これはへジュンも写真派で、現実を直視するタイプだという事を表している。この時にへジュンの恋心はすでにスタートしていたようだ。ほかにも、山より海派、同じスマホを使っている、同じ車に乗っているなど、たくさんの共通点が二人には存在している。
3、ソレの夫たちに浸食されていくへジュン
もはや仕事か趣味か分からないレベルでソレの張り込みを続けるへジュンだが、ソレにのめり込むあまり、張り込みや実際にソレの部屋へ訪れて目撃した、ソレの夫たちの癖や好んでいたものを嗜むようになっていた。最初の夫キ・ドスは台湾のウイスキー「KAVALAN」を愛飲していた。ソレの部屋でそれを見つけたへジュンはその後の刑事仲間との食事のシーンで「KAVALAN」をキ・ドスと同じようにスキットルに注ぐシーンが描かれている。ほかにもソレの二人目の夫・イム・ホシンは指をボキボキ鳴らすのが癖だが、へジュンは一度会っただけにも拘らずとあるシーンで、おそらく自分でも無意識的に指をボキボキ鳴らしている。品があり優しい刑事というキャラクターには全く似つかわしくない行為だが、ソレへのめり込むあまりソレの夫たちに自分を寄せていくのだった。
4、本作の始まりである「マルティン・ベック」シリーズの登場
『別れる決心』は監督曰く「私が好きなスウェーデンの推理小説、警察官のマルティン・ベックシリーズのような、私好みの性格の刑事キャラクターを登場する映画を作りたいと思いました」と、本作のはじまりは「マルティン・ベック」シリーズであると公言しているのだが、なんと本編に登場しているのをお気づきだろうか?へジュンがソレに手料理をふるまうべく、自宅にソレを招待したシーン。へジュンが腕を振るっている間、ソレは部屋を散策に。デスクの電気を点けると机の上に積まれていた本の表紙が映し出されるのだが、その本こそが「マルティン・ベック」シリーズなのだ。へジュン自身も愛読し、マルティン・ベックのような刑事になりたいと思っていたのだろうか?
5、壁紙、衣装に込められた意味
ソレが劇中青色にも緑色にも見える衣装を身に着けているのだが、これはソレがファム・ファタールなのか、はたまた本当にへジュンを愛する女性なのか、という事を比喩的に表現する装置になっている。また、ソレの部屋の壁紙だが、これも海にも山にも見えるようなデザインになっている。それぞれ衣装デザイナー、美術監督のアイディアで監督がそれを採用し、それに合わせてセリフも変更したというチームパク・チャヌクならではのこだわりとなっている。
6、波がソレの横顔に!
ラスト、ソレを追い海へとやって来たへジュン。車をソレの車の後ろに止めるシーンで真上からの俯瞰の映像になるのだが、そのシーンでの波の形がソレの横顔になっている。これに気づいた人はすごい!
7、へジュンは結局ソレの手の中
ソレを追って海へ来たへジュン。ソレは自らの命を絶とうと砂浜に深い穴を掘り、その中に入る。徐々に潮が満ちて穴の中に水が入り始め、ソレは手のひらで水と砂の感触を味わう。そこでシーンが切り替わるのだが、その際にパっと切り替わるのではなくフェイドアウトする。次のシーンでは砂浜を血眼になって走り回るへジュンの姿。その瞬間、へジュンはソレの掌の上を走り回っているように見えるのだ。
などなど、ほかにもパク・チャヌク監督やスタッフたちのとんでもなく細部までにわたるこだわりが満載の本作。一度目はへジュン目線で、二度目はソレ目線でという楽しみ方が韓国ではブームになっていたそうだ。是非スクリーンで新たな発見を楽しんでほしい。
『別れる決心』はTOHOシネマズ日比谷ほか絶賛公開中
諏訪部順一=ヘジュン、沢城みゆき=ソレと超人気声優が主演2人を演じた日本語吹替版も絶賛上映中