“反社のセレブ”描く『ジェントルメン』で原点回帰したガイ・リッチー盟友ステイサムとの16年ぶりタッグ作『キャッシュトラック』はバイオレンス満載（2/2）

新着ニュース

2023.02.04

ライター：#ギンティ小林

“反社のセレブ”描く『ジェントルメン』で原点回帰したガイ・リッチー盟友ステイサムとの16年ぶりタッグ作『キャッシュトラック』はバイオレンス満載（2/2） — 『ジェントルメン』DVD＆Blu-ray好評発売中　価格：Blu-ray：5,280円（税込）DVD：4,290円（税込）発売元：株式会社キノフィルムズ／木下グループ　販売元：株式会社ハピネット・メディアマーケティング　© 2020 Coach Films UK Ltd. All Rights Reserved. Motion Picture Artwork © 2019 STX Financing, LLC. All Rights Reserved.
『キャッシュトラック』DVD＆Blu-ray好評発売中　価格：Blu-ray：5,280円（税込） DVD：4,290円（税込）　発売元：株式会社クロックワークス　販売元：株式会社ハピネット・メディアマーケティング　© 2021 MIRAMAX DISTRIBUTION SERVICES, LLC ALL RIGHTS RESERVED.

全11枚

ステイサムが素人時代の盗品屋知識を披露『ロック、ストック＆トゥー・スモーキング・バレルズ』ガイ・リッチー監督の紆余曲折キャリア（1/2）

成熟した反社キャラを描く『ジェントルメン』で原点回帰

『シャーロック・ホームズ』（2009年）や『キング・アーサー』（2017年）などでアレンジのセンスを発揮し、『アラジン』（2019年）でディズニー映画の大ヒット監督にもなれたんだから、ガイ・リッチーはもう犯罪映画に戻ってくることはないだろう……と思いきや、成功したリッチーが次回作に選んだのはロンドンの反社ワールドを舞台にした犯罪群像喜劇『ジェントルメン』（2019年）だった。

それまでのリッチーの犯罪映画のメイン・キャラは、反社ワールドにいるチンピラや下請け業者チックな底辺で暮らすキャラだった。だが今回の主人公は、一代でロンドンの大麻王となったミッキー（マシュー・マコノヒー）と、その側近レイモンド（チャーリー・ハナム）たち。反社のセレブだ。チンピラ4人組の右往左往ぶりを描いた長編デビュー作『ロック、ストック＆トゥー・スモーキング・バレルズ』（1998年）から20年以上が経ち、歳を重ねたリッチーと共に、彼が描く反社キャラも成熟した。

物語は、ミッキーが大麻ビジネスから引退をしようとしたことで、ロンドンの反社ワールドの住人だけでなく、ゴシップ紙の編集長や欲深い私立探偵、ユダヤ人の大富豪たちが甘い汁を吸おうとした結果、とても僕の口からは言えないぐらい悲惨な目に遭うというもの。そんな物騒なお話を、リッチーは初心を取り戻したような粋なストーリーテリング＆映像センスで見事に描いてくれた。

ナレーション兼任のヒュー・グラント、車上荒らしに遭う

リッチーの反社ムービーのお約束といえば毎回、登場人物のひとりがナレーションも担当すること。本作ではインチキ臭い私立探偵に扮したヒュー・グラントが語り部を務める。が、これまでの作品と違いヒューはナレーションではなく劇中、チャーリー・ハナムに本作で起こる抗争事件の顛末を説明する。つまり、ヒューには大量の長台詞がある。

そんな大役を完遂するため、彼は大量のカンペを用意して撮影に挑むことにした。撮影前夜、ヒューはカンペを忘れないように、マイカーの中にしまった。その晩、マイカーが車上荒らしに遭ってしまう。こともあろうに、盗人はカンペと脚本を入れたバッグも盗んでしまった。そのため彼はカンペなしで撮影に挑まなければならなかった……。

今後『ジェントルマン』を鑑賞される方は、そんなヒューの苦労を胸に刻みながら彼の台詞のひとつひとつを噛みしめてください。

Toff_guys_Day_31_0170.ARW

マシュー・マコノヒーが大麻王に!?『ジェントルメン』で“あの頃のガイ・リッチー映画”が帰ってきた！豪華配役に武者震い必至

リッチー＆ステイサム16年ぶりタッグ作『キャッシュトラック』は仏ノワールのリメイク

『ジェントルマン』で自身が生み出したスタイルの犯罪映画に対して落とし前をつけたリッチーは、次回作でも犯罪映画『キャッシュトラック』（2021年）をチョイス。しかし、この作品で彼はそれまでのリッチー流犯罪映画とは違う、新たな犯罪映画のフェーズに挑戦した。

本作は、ニコラ・ブークリエフ監督によるフランスのバイオレンス・ノワール映画『ブルー・レクイエム』（2004年）を原作にしている。オリジナルで主人公を演じたのはアルベール・デュポンテル。アルベールといえば『プレイ‐獲物‐』（2010年）で、全盛期のジャン＝ポール・ベルモンドやジャッキー・チェンばりのアクションを披露したが、この映画では見るからに頼りなそうな人物を見事に演じている。

そんな男が現金輸送会社に入社する。その会社では最近、現金輸送車が頻繁に武装強盗グループに襲われていた。しかし、入社してきた男は、支給されたリボルバーのTAURUS M80をプルプル震えながら受け取り、射撃訓練でうっかり天井を撃ってしまうほど非力な人物。当然、同僚たちは彼を豪快にナメた。しかし、この男、実は元特殊部隊の凄腕ソルジャーでした！なんて小粋なサプライズは本作にはない。彼は人生で初めてマッチョな世界に足を踏み入れた小市民だった……。

それでも男は黙々と不慣れな仕事をこなし、夜は長期滞在するホテルの部屋で銃器の扱いの勉強や肉体改造に励みながら、同僚たちの身辺を調べていく。実はこの男が現金輸送会社に就職したのは、人生をかけて挑む、ある復讐を遂行するためであった……という謎に満ちた物語を、ストイックかつ淡々としたムードで描いている。

そんな『ブルー・レクイエム』を観たリッチーは、「この映画をジェイソン・ステイサム主演でリメイクしたら面白くなる！」と思った。ステイサムも朋友リッチーの主演依頼に喜び、『リボルバー』（2005年）以来、16年ぶりのタッグが実現した。

ガイリチ＆ステイサムがネクストレベルに到達！『キャッシュトラック』は超ストイックな重厚クライムサスペンス

最恐「What If…?」もし主人公が「一番イイ仕上がりのステイサム」だったら

リッチーはステイサムが演じる主人公を、オリジナルのような非力な小市民にする気はなかった。シャーロック・ホームズやアーサー王を自分好みの不良性感度が高いキャラにアレンジしてきた彼は、これまで以上に大胆なアレンジを行う。なんと、主人公をFBIが25年追い続けているギャングのボスで、正体を隠して現金輸送会社に入社する、という先が読めすぎる設定に変更。「最近頻繁に現金輸送車が武装強盗グループに襲われている現金輸送専門の警備会社に、ミステリアスな男が就職してくる」という物語のツカミこそオリジナルと同じだが、主人公の設定が変わったことにより、まったく違う結末に向かう作品となった。

常におどおどしていたオリジナルの主人公とは違い、ステイサムは終始ムッとしている。しかも、新入社員のくせに態度が会社で一番でかい。つまり、本作はステイサムの大事な魅力のひとつである「ハズレの合コンに来てしまった男子が浮かべるような表情」を全編にわたり存分に堪能できるゴキゲンな作品になっている。しかも、オリジナルの主人公と違い、ステイサムは最初から最強だ。

今日もムッとした顔つきで現金輸送車に搭乗していると、武装強盗集団に遭遇！しかし、ステイサムは1ミリも表情を変えず、会社から支給されたグロック17を使い、機械のような正確さで強盗を皆殺しにしてしまう……。このように、本作は『ブルー・レクイエム』のリメイクというよりも、「もしも『ブルー・レクイエム』の主人公が、一番イイ仕上がりのジェイソン・ステイサムだったら？」という「What If…?」なお題に、ガイ・リッチーが持てる監督スキルをすべてスパークさせて挑んだ野心作。彼は朋友ステイサムをサイコーな状態で観客にお届けするために、本作では得意とするコメディを封印し、ダークなムード漂う作品にしている。

さらにアクションでもリッチーお得意のトリッキーな映像スタイルを封印し、リアルかつ乾いた暴力が炸裂するバイオレンス映画に仕上げた。それでいて、オリジナルでは正体不明の存在だった強盗グループのキャラクターを「この強盗グループを主人公に映画を作ったら？」と思わせるぐらい丹念に描くという、犯罪群像劇を得意とするリッチーならではの魅力も健在だ。

その結果、『キャッシュトラック』はリッチー流犯罪映画の新たなフェーズをアピールしただけでなく、ステイサム史上トップクラスに怖いステイサムを堪能することができる逸品となった。なんせ劇中、ギャングのボス時代のステイサムが散歩でもするかのように室内をスタスタ歩きながら、ドイツ製のハンドガンH＆K USPで、部屋に立たせた男たちをカジュアルに射殺していくシーンは、これまでステイサムが披露してきた殺人シーンの中でもトップクラスの衝撃映像ですから！

文：ギンティ小林

『ジェントルメン』『キャッシュトラック』はCS映画専門チャンネルムービープラスで2023年2月放送

“隠れリッチー”はどこ!? ガイ・リッチー『ジェントルメン』のトリビアを紹介！過去作との共通点とは？

ギャラリー

全11枚

Share On

『ジェントルメン』

CS映画専門チャンネルムービープラスで2023年2月放送

放送日

『キャッシュトラック』