これまで新作を発表するたびに異なるテーマで観る者を圧倒してきたフランスの名匠フランソワ・オゾン。2021年はオゾンにとっての“原点回帰”とも言われた『Summer of 85』が日本で公開され、大きな話題となった。そして2023年は、これまでオゾンが幾度も描いてきた“死”をテーマに、その集大成ともいうべき新作映画『すべてうまくいきますように』が公開される。
フランソワ・オゾンが亡き盟友の遺志を継いだ新作映画
原作は、これまで『まぼろし』や『スイミング・プール』など、オゾンと共同脚本を手掛けてきた盟友エマニュエル・ベルンエイムの「Tout s’est bien passé」。“安楽死”を望む父親と、それに振り回される娘の葛藤を描いた自伝小説だ。
しかし、その映画化が進んでいた2017年、ベルンエイムはガンで帰らぬ人となった。その後、長年タッグを組んできたオゾンが彼女の遺志を継ぐかたちで本作の映画化を実現。オゾンはインタビューで「この物語を語ることができて嬉しいが、今でもエマニュエルがここにいてくれたらと思わずにいられない。この映画を彼女にぜひとも見せたかったよ」と語っている。本作は彼女に捧げた作品といえるだろう。
今回は『すべてうまくいきますように』の公開を記念して、フランソワ・オゾンとエマニュエル・ベルンエイムが共同脚本を務めた作品を紹介。2023年2月の公開を前に過去作をおさらいすることで、『すべてうまくいきますように』をより楽しめること間違いなしだ。
『まぼろし』(2001年)
夫が突然、行方不明に――愛するものを失った時、残された妻がたどる心の旅
結婚して25年になる50代の夫婦マリー(シャーロット・ランプリング)とジャン(ブリュノ・クレメール)。二人は南仏の別荘で毎年恒例のバカンスを満喫していた。しかし、浜辺でマリーが寝ている間にジャンが行方不明になってしまう。警察が捜索するも、夫は見つからず、マリーは仕方なくパリでの生活に戻ることに。だが、彼女はその喪失感から夫の「まぼろし」を作り出してしまい…。『愛の嵐』(74)のシャーロット・ランプリングが再注目されるきっかけとなった作品であり、オゾン監督による“死にまつわる3部作”の1作目といわれている。
『スイミング・プール』(2003年)
真夏のプールサイドで繰り広げられる、“見る女”と”見られる女”のミステリー
イギリス人推理作家のサラ(シャーロット・ランプリング)は出版社の社長の勧めで、新作の執筆のため、南仏の別荘にやってくる。そこへ、社長の娘と名乗る若者ジュリー(リュディビーヌ・サニエ)が現れ、奔放な生活を勝手に始める。最初は戸惑うサラだったが、彼女に興味を持ち、彼女を題材に執筆を始める。しかし、次第に現実と虚構が入り混じり、事態はミステリーのような展開に…。『まぼろし』で高い評価を得たシャーロット・ランプリングが、オゾン×ベルンエイムと再タッグを組んだ作品。
『ふたりの5つの分かれ路』(2004年)
離婚、倦怠期、出産、結婚、出会い――遡っていく、ふたりの転機
離婚手続きを終えた1組の夫婦。元夫婦となったマリオン(ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ)とジル(ステファヌ・フレス)は最後の思い出にホテルへと向かうが、もう元の関係には戻れないことを悟る。そこから時間は遡り、二人の転機となった出来事が一つずつ描かれていく。話題作を連発していたオゾンが、これまでとは異なるストーリーテリングに挑戦した意欲作。
5x2 (2004), François Ozon ☀️ pic.twitter.com/Kw9cOlS3M7
— MUBI France (@mubifrance) May 2, 2022
『Ricky リッキー』(2009年)
ある日、突然、赤ちゃんの背中から翼が生えて――?
娘と二人で平凡な暮らしを送っていたシングルマザーのカティ(アレクサンドラ・ラミー)は、ある日、勤め先の工場の新入りパコ(セルジ・ロペス)と恋に落ちる。最初は娘の反発もあったが、徐々に新たな生活に慣れようとしていたなか、パコとの間に新たな子どもリッキーを授かる。しかし、ある日突然、リッキーの背中から翼が生えてきて、大騒動へと発展していく…。
安楽死を願う父に、どう向き合うか?『すべてうまくいきますように』
誰にでも訪れる家族との別れ――それが安楽死だとしたら?
芸術や美食を楽しみ、ユーモアと好奇心にあふれ、何より人生を愛していた父が突然、安楽死を願う。脳卒中で倒れたことがきっかけだが、治療の甲斐あって順調に回復しているにもかかわらず意思を曲げない父に、二人の娘たちは戸惑い葛藤しながらも、真正面から向き合おうとする。
『まぼろし』で“恐るべき才能”と讃えられ、ベルリン国際映画祭銀熊賞に輝いた『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』で名匠の地位を確立したフランソワ・オゾンが、すべての人に訪れる死を題材に、家族の愛とは何かを問いかける。主役を演じるのは、『ラ・ブーム』の世界的大ヒットでスーパーアイドルとなり、今なおフランスの国民的俳優として愛され続けるソフィー・マルソー。オゾン作品に深みを与えてきたシャーロット・ランプリングや、フランス映画界の重鎮アンドレ・デュソリエらが脇を固める。
最期の日を決めた父と娘たちの前に、様々な問題が立ちはだかる。サスペンスフルなストーリーテリングを得意とするオゾンが、緊迫感に満ちた展開の先に用意した、想像を裏切る結末とは――?
『すべてうまくいきますように』は、2023年2月3日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、Bunkamuraル・シネマほか公開
『すべてうまくいきますように』
小説家のエマニュエルは、85歳の父アンドレが脳卒中で倒れたという報せを受け病院へと駆けつける。意識を取り戻した父は、身体の自由がきかないという現実が受け入れられず、人生を終わらせるのを手伝ってほしいとエマニュエルに頼む。一方で、リハビリが功を奏し日に日に回復する父は、孫の発表会やお気に入りのレストランへ出かけ、生きる喜びを取り戻したかのように見えた。だが、父はまるで楽しい旅行の日を決めるかのように、娘たちにその日を告げる──。
監督/脚本:フランソワ・オゾン
出演:ソフィー・マルソー、アンドレ・デュソリエ、ジェラルディーヌ・ペラス、シャーロット・ランプリング、ハンナ・シグラ、エリック・カラヴァカ、グレゴリー・ガドゥボワ
制作年: | 2021 |
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2023年2月3日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、Bunkamuraル・シネマほか公開