昨今、音楽シーンではシティ・ポップ、ディスコやニューエイジといった1980年代に隆盛を極めた音楽がリバイバルされ、映画でも『シング・ストリート 未来へのうた』(2016年)や『ボヘミアン・ラプソディ』(2018年)、Netflixのオリジナルドラマ「ストレンジャー・シングス 未知の世界」といった1980年代カルチャーに影響を受けた作品が多く制作されている。今回は、新しくて懐かしい!とますます注目を浴びる1980年代カルチャーにフォーカスし、エモーショナルに浸りたい夏にぴったりの劇場公開作品を3本ピックアップ!
『シャイニー・シュリンプス!愉快で愛しい仲間たち』(2021年7月9日公開)
2019年5月、フランスで公開されたフランス語映画(続編を除く/2019.5.8~12 BOX OFFICE MOJO調べ)で初週動員数No.1を記録した本作は、実在のゲイの水球チームをモデルにした物語。同性愛者への心ない発言をした元オリンピック・銀メダリストの水泳選手マチアス(ニコラ・ゴブ)に課されたのは、パーティー大好きなゲイの水球チーム「シャイニー・シュリンプス」のコーチに就任し、LGBTQ+による世界最大のスポーツと文化の祭典「ゲイゲームズ」を目指すことだった!口を開けばジョークや下ネタばかり、試合の勝ち負けにこだわらないお調子者ばかりのシャイニー・シュリンプスはゲイゲームズ開催の地へ向かう道中も、トラブルを起こしまくり……⁉︎どんな時もパワフルに、自由を謳歌するシャイニー・シュリンプスとマチアスたちが引き起こす、ドンチャン騒ぎの意外な結末とは?
日本でもお馴染み、青春を思い出す「80’sミュージック」に胸が熱くなる!
“他⼈の意⾒に煩わされることなく⼈⽣を精⼀杯⽣き、たとえどんな困難にぶつかっても⾃分に正直に⽣きること”の価値を主張するシャイニー・シュリンプスの根底にあるのは、「積極的に⼈⽣を楽しもう」という考え⽅。そんな本作を彩るのは、予告編でも使用されたボニー・タイラーが歌う「Holding Out For A Hero」や、サブリナ・サレルノのヒットナンバー「BOYS」といった1980年代を象徴する大ヒットナンバーふんだんに使用されている。
メガホンをとったセドリック・ル・ギャロ監督は「1980年代の楽曲は音楽的にも本当に素晴らしい。そのことに加えて、あの時代は好き嫌いにかかわらず、みんなが同じ曲を聴いていたという時代だった。僕も(共同監督・脚本を担当した)マキシムも子供の頃によく聴いていたしね。1980年代の音楽には、この音楽を聴いたらひとつになれる、みんなを連帯させるような力があると思う」と、その時代性についても触れながら音楽の持つ力について語る。特に本作の印象的なシーンでも使用される「Holding Out For A Hero」は、日本でも1984年に放送された学園ドラマの金字塔「スクール☆ウォーズ〜泣き虫先生の7年戦争〜」の主題歌で麻倉未稀がカバーしたことで広く知られ、年齢、性別を超えて愛される楽曲が、どんな現実でもユーモアで立ち向かっていくシャイニー・シュリンプスの姿のように、多くの人に勇気とパワーを与えるとともに、きっと彼らと一緒に踊り出したくなること間違いなし!
『Summer of 85』(2021年8月20日公開)
世界三大映画祭の常連にして、世界中から新作を待ち望まれているフランス映画界の巨匠フランソワ・オゾンの最新作は、監督が17歳の時に出会い感銘を受けた青春小説の金字塔「Dance on my Grave」(おれの墓で踊れ/徳間書店)を映像化した作品。舞台は1985年、夏。北フランスの海辺の町。セーリングのためヨットで沖に出た16歳のアレックスは、突然の嵐に見舞われ、18歳のダヴィドに救助される。アレックスにとって、自然体で自信に満ちたダヴィドは眩いほど魅力に溢れていた。急速に惹かれ合い、友情を超えやがて恋愛感情で結ばれる二人。しかし、そんな幸せな日々も長くは続かなかった。愛すれば愛するほどに湧き上がる“満たされない気持ち”。「ほんの一瞬も離れたくない」と願うアレックスを待ち受けていたのは、不慮の事故によるダヴィドとの突然の別れだった――。
80’sの名曲とともに思い出す、初恋の“喜び”と“痛み”
予告編で使われたThe Cureの「In Between Days」がリリースされたのと同じ1985年のフランスを舞台に、運命的に出会った2人の少年が、愛と永遠の別れを知るまでの6週間を描いた本作。映像では、共に過ごしていく中で無邪気に初恋の喜びをかみしめる少年たちの姿をアップテンポで爽やかな「In Between Days」が彩る。軽快な曲調でありながら、実は歌詞は恋人との破局について歌っているという二面性をもつ楽曲であり、オゾン監督も「積極的に人生を押し開けようとしてダークサイドも知ることになるアレックスに合っていた」と選曲の理由を語っている。音楽だけでなく、ファッションやウォークマンといった小道具に至るまで1980年代の再現が非常にリアルなので、オゾン監督ならではの16mmフィルムで撮影された鮮やかな色使いと、エモーショナルな映像とも合わせて要注目!
『ショック・ドゥ・フューチャー』(2021年8月27日公開)
奇才アレハンドロ・ホドロフスキーの孫娘アルマ・ホドロフスキーがキャスティングされ、フランスの音楽ユニット「ヌーヴェル・バーグ」のマーク・コリンがメガホンをとったことでも注目の本作の舞台は1978年、パリ。若手ミュージシャンのアナは依頼されたCMの作曲に取り掛かるが、納得のいく仕事ができずにいた。そんなある日、アナは見たこともない日本製の電子楽器に出会い、理想のサウンドへのヒントを得る。電子音楽の未来的な音の響きに魅せられ、心躍らせる若き女性ミュージシャンと友人たちの一日が始まる。
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YMOが結成された頃、80’sのエレクトロ・ミュージックの幕開けを聴く
1980年代カルチャーを語る際に外すことができないのは、日本をはじめ世界でも圧倒的知名度と人気を誇るYMO(イエロー・マジック・オーケストラ)の存在だろう。本作の舞台はまさにYMO(イエロー・マジック・オーケストラ)が結成された頃、シンセサイザーやリズムマシン、シーケンサーなどの電子楽器が普及し始めた1978年のパリ。1980年代に隆盛を極め、今でも世界中で愛され、聴かれているエレクトロ・ミュージックの幕開けを知ることができる本作のキーアイテムとして登場するのは日本製のリズムマシン、ROLAND CR-78だ。数々の名曲を生み出してきた電子楽器の“名機”として知られ、劇中でもアナと友人が宅録で曲を作る場面も見られる。スロッビング・グリッスル、スーサイド、ディーヴォ、ザ・フューチャーakaヒューマン・リーグといった1970年代後半の名曲で彩られた本作を観れば、なぜエレクトロ・ミュージックが人々を魅了し続けるのか、その一端を垣間見ることができるかもしれない。