2020年10月16日(金)より新宿ピカデリー他にて全国公開される、蒼井優主演、黒沢清監督最新作『スパイの妻』。このたび、イタリアで2020年9月2日(現地時間)より開催されている第77回ヴェネチア国際映画祭で、銀獅子賞(監督賞)を受賞した。
ヴェネチア国際映画祭の最優秀監督賞にあたる銀獅子賞の受賞は、日本映画としては2003年の北野武監督『座頭市』以来、17年ぶりの快挙となる。ヴェネチア国際映画祭での上映後「近年の黒沢作品の最高傑作!」(IndieWire誌)、「純粋に楽しむことができ、国際的にも受け入れられるエンターテインメント」(米Variety誌)、「黒沢監督はこの作品で、新たな野心的出発を遂げる」(英Screen Daily誌)と評判だ。
作品を通じて変化する妻、聡子の感情描写に注目!
1997年公開の商業映画デビュー作『CURE キュア』では猟奇的な殺人犯を追う刑事の姿を描いたサイコ・サスペンスで世界的に注目され、2008年公開の『トウキョウソナタ』では地に足の着いた社会派ドラマの製作に挑戦、『岸辺の旅』(2015年)では死んで帰ってきた夫と旅をする夫婦の姿を描いて、第65回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門監督賞を受賞した黒沢清監督。さまざまなジャンルの映画に挑戦している黒澤監督だが、本作では初めて戦時中を舞台にした作品に挑む。
本作の舞台は、1940年太平洋戦争前夜の神戸。貿易商を営む優作(高橋一生)は、赴いた満州で恐ろしい国家機密を偶然知り、正義のために事の顛末を世に知らしめようとする。聡子(蒼井優)は反逆者と疑われる夫を信じ、スパイの妻と罵られようとも、その身が破滅することも厭わず、ただ愛する夫とともに生きることを心に誓う。太平洋戦争開戦間近の日本で、夫婦の運命は時代の荒波に飲まれていくという……あらすじだ。
第二次世界大戦の初め、夫の隠密作戦によって揺るがされるモラルと夫婦関係の苦悩に追い込まれるというそのストーリーは、時代背景と抑制された古典的な語り口を考えると、黒澤監督作品にはまず馴染みがなく、挑戦的な作品であったといえる。
本作ではありきたりなスパイ活動を描いているわけではない。葛藤するヒロインであり妻の、知性や能力、独立性といった部分が、周囲の男性たちにそこまで認められていないという、当時の時代背景に沿った描写がなされているのが大きな特徴だ。
夫を一途に愛す妻の聡子のキャラクターと演技に合わせて、ストーリーは次第に明確なものへと変化を遂げていく。最初の20分ほどは、聡子と優作の上品な結婚生活が強調されており、ともすればやや硬い印象を感じるかもしれない。しかし、物語が進むにつれ、この初々しさ溢れる姿から、爽快でインパクトのある終盤の道のりまでの変化がダイナミックに描かれていくのだ。変化していく妻聡子のキャラクターに合わせ、円満だったかつての夫婦の姿もやがて燃え上がっていく。世界が認める黒沢監督の演出力、そして過去に数々の賞を受賞している蒼井優の迫真の演技に要注目だ。
『スパイの妻』は2020年10月16日(金)より新宿ピカデリー他にて全国公開。