アメリカ・ニューヨークに実在したシネフィルの聖地、キムズビデオの5万5000本にも上る唯一無二なビデオ・コレクションの行方を巡るドキュメンタリー映画『キムズビデオ』の日本公開が決定。日本版のティーザービジュアルも到着した。
世界最高のレアビデオ・コレクションの数奇な運命を追うドキュメンタリー
ワールドプレミアとなったサンダンス映画祭では「遊び心がハンパない」「常軌を逸したドキュメンタリー」と映画ファンたちから熱狂的な支持を受けて大きな話題になり、その後トライベッカ映画祭など計59の映画祭で上映され、シッチェス映画祭・ドキュメンタリー部⾨の最優秀作品賞をはじめ、計7つの賞を受賞するなど、一昨年から世界中の映画祭を席巻してきた『キムズビデオ』が、ついに日本で公開されることが決定した。
1987年、韓国系移民のキム・ヨンマンがアメリカ・ニューヨークに開業した「キムズビデオ」は、世界中から収集された5万5000本ものレアな映像作品が取り揃えられていた。入手ルートも、世界各地の映画祭や各国大使館経由など、大手レンタルビデオショップには真似のできない独自のものだった。その世界最高のレアビデオ・コレクションを目当てに、シネフィルたちが連日通い詰め、会員数は25万人に膨れ上がった。その会員の中には、若かりし頃のコーエン兄弟もおり、延滞金を600ドル滞納している逸話も本作に登場する。さらに、トッド・フィリップス(『ハングオーバー』シリーズ、『ジョーカー』シリーズ)や、アレックス・ロス・ペリー(『ハースメル』)、ショーン・プライス・ウィリアムズ(『スイート・イースト 不思議の国のリリアン』)ら、今や名を馳せる監督たちがキムズビデオの店員として働いており、その後の映画業界の発展に貢献したと言っても過言ではない理想郷だった。
一方、このビデオ・コレクションの中には、本来アメリカで見られない違法コピーなどの海賊版も多く、それがまた会員たちを興奮させていた。その海賊版の中には、ジャン=リュック・ゴダールの作品群も含まれ、ゴダールからレンタル差し止めの通告が届き、映画の権利元の訴えを受けたFBIに押収されるなど、多くの伝説が語り継がれるシネフィルの聖地でもあった。
だが、ビデオレンタル時代の終焉とともに、2008年に惜しまれつつ閉店。キムズビデオの会員だったデイヴィッド・レッドモンが、そのコレクションがその後どうなったのか捜索すると、ニューヨークから遥か遠いイタリア・シチリア島に移設されていることが判明。レッドモンがシチリア島に出向くと、ビデオテープにとってはあまりにも劣悪なホコリだらけの湿った所蔵庫で放置されていることが発覚。そこでレッドモンは唯一無二なレアビデオ・コレクションを救い出すことを決意。アルフレッド・ヒッチコックやチャールズ・チャップリン、イングマール・ベルイマン、ジャッキー・チェンといった映画の巨匠たちの“精霊”を召喚し、架空の映画撮影を装いながら前代未聞の奪還作戦を決行する。
日本版ティザービジュアルは、本作にとって象徴的な「VHSテープ」をモチーフにし、そのラベルには「キムズビデオ」の創業者であるキム・ヨンマンの姿がデザインされている。懐かしさとミステリアスな魅力を兼ね備え、文化的遺産を象徴するビジュアルとなっている。
日本でもSHIBUYA TSUTAYAが昨年4月にリニューアルし、今となってはあの膨大な映像コレクションを見ることはできない。また、今年「ビデオテープ2025年問題」が起きると囁かれており、映像メディアの価値を再考させる本作の公開は、まさに絶好のタイミングと言える。『キムズビデオ』は、今夏、ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷ホワイトシネクイントほかで全国順次公開。