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「救いが無さすぎ」「二度は観られない傑作」錆びついた街の現実を突きつける悲劇『ファーナス/訣別の朝』

「救いが無さすぎ」「二度は観られない傑作」錆びついた街の現実を突きつける悲劇『ファーナス/訣別の朝』
『ファーナス/訣別の朝』©2013 Furnace Films, LLC All Rights Reserved.
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ラストベルト、国家の裏切り、トランプ再選

トランプ大統領の再選を目の当たりにした今、本作で描かれた人々の切実さがさらに胸に迫る。2016年のトランプ当選を支えたとされるミシガン州、ウィスコンシン州、ペンシルベニア州、いわゆる<ラストベルト>が本作の物語と無関係ではないからだ。そして副大統領となったJ・D・バンスはご存知の通り、ホワイト・トラッシュのリアルを描きNetflixで映画化もされた「ヒルビリー・エレジー」の作者である。

かつての大統領選で“トランプ王国”などと呼ばれた元工業地帯は、現在どうなっているのか。“観光で訪れるアメリカ”とは全く異なる環境なので、ジャーナリストたちの地道なレポート等から細々と状況を知るしかない。しかし2024年のトランプ再選の大きな原動力となったのは、明日をも知れぬ生活を余儀なくされている人々の「リベラルに裏切られた」「真っ当に働けば最低限の生活ができる国に」という切実な願いであることは一つの事実だろう。

『ファーナス/訣別の朝』©2013 Furnace Films, LLC All Rights Reserved.

“感情の爆弾”が観る者の心拍数を跳ね上げる

ラッセルの弟ロドニー(ケイシー・アフレック)は、兄や父のように製鉄所ではたらくことを拒絶して何度もイラクに出征するが、その度にボロボロになって戻ってくる。地元のレールから逸れて一発当てる未来を求めた彼は、国に使い捨てにされて心を病み、最低限のレールすら踏み外していく。その果てに守るべきものが何もなくなった兄は、もはや復讐鬼になる以外の道はなかった。

『ファーナス/訣別の朝』©2013 Furnace Films, LLC All Rights Reserved.

スコット・クーパー監督は『クレイジー・ハート』(2009年)にしても『ブラック・スキャンダル』(2015年)にしても、派手な展開を好まずじっとり、じわじわと人物を丁寧に描いている。本作ではドキュメンタリーかと思うほどカメラが人物のあとを付いて歩き、ラッセル兄弟の寝たきりの父親や地元のバー店主、半グレ的なヤバいおっさんなど主要人物をセオリー通りに順繰りに映していく。

ただし要所に“爆発”を配置していて、何度も観客の心拍数を跳ね上げる。製鉄所で働くよう説得する兄ラッセルに対して兵役の闇をぶつけるロドニーの叫びは、本作のハイライトの一つだ。そして状況が悪化するたびに諦観と執念が入り混じったような表情で覚醒していくラッセルから、目が離せなくなっていく……。

『ファーナス/訣別の朝』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2024年12月放送

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