秋の夜長にサスペンス&ミステリを
秋の夜長にはサスペンスやミステリー作品を摂取したくなるものだ。そして一息つこうと外に出れば吐く息は白く、澄んだ空気が薄闇に奥行きを与え、いつもより高い夜空には無数の星が冷たく光っている。
……なんて気分に浸れる映画を、お腹いっぱい観まくりたい! という人にオススメの特集放送が現在、TVで一挙放送中。90年代の名作から2020年代のホヤホヤ準新作まで、気になるラインナップをざっと紹介しよう。
実際の“未解決”連続殺人事件を描いた実録サスペンス
ネタバレ絶対NGの創作ミステリーは謎解きと伏線の配置で興味を惹かせることがキモとなるが、実際に起こった事件をベースにしたサスペンス要素で引っ張る作品は、キャストの演技力や結末に左右されない演出的強度が重要になる。例えばポン・ジュノ監督の『殺人の追憶』(2003年)などは、そのお手本とも言える超傑作だ。
この映画のベースとなったのは80~90年代にかけて10人の女性が殺害された「華城連続殺人事件」と言われているが、時効確定後の2020年にDNA鑑定によって同事件の犯人と目された男は、すでに別の事件で逮捕され終身刑に服していた。恐るべき未解決事件のあっけない決着に、何度も犯人像を思い浮かべながら撮影したであろうポン・ジュノ監督は当時、「犯人の顔を見て奇妙な感覚をおぼえた。まさかこんな日が来るなんて」とコメントしている。
日本にも多くのファンがいる『殺人の追憶』だが、犯人逮捕の報に肩の重みが楽になったような気分を覚えた人もいるだろう。優れたサスペンス作品は鑑賞後もずぶずぶと没入させられ続け、恐ろしいシーンの断片やキャストの表情などが脳裏にこびりつくものだ。
そしてCS映画専門チャンネル ムービープラスの「特集:秋のサスペンス&ミステリー」で放送される、デヴィッド・フィンチャー監督作『ゾディアック』(2007年)は正真正銘いまだ未解決の、謎多き連続殺人事件をテーマに描かれた“実録的”サスペンスの傑作である。ということで、この事件のあらましを改めて超ざっくり紹介しておこう。