デル・トロ印の怪奇スリラー『ダーク・フェアリー』
デル・トロが言い出さなければ誰もリメイクしようとは思わなかったであろう『地下室の魔物』を、ケイティ・ホームズとガイ・ピアースという豪華キャストで新たな劇場映画にできたのもまた、デル・トロだからこそ。そして現代にリメイクする意義として、オリジナル版に込められていたメッセージも引き継いでいる。
妻と離婚した建築家アレックスと、恋人のキム。2人はロードアイランド州の古い屋敷を修復し、アレックスの娘サリーを呼び寄せ一緒に暮らし始める。屋敷に来た早々、通風孔の奥から何かが話しかけてくるのを感じるサリー。地下室で厳重に封印された扉を見つけた彼女は、それを開けてしまい……。
ジェットジャガー人形みたいなオリジナル版とは異なり、本作に登場するクリーチャーは「トゥース・フェアリー」であることが冒頭から示唆される(デル・トロはトゥース・フェアリーを『ヘルボーイ/ゴールデン・アーミー』[2008年]にも登場させた)。もう一つ大きな改変としては、アレックスの恋人キムの連れ子サリーが実質的な主人公になっている点だ。オリジナル版の主人公サリーの名を彼女に与え、かつてサリーを演じたキム・ダービーの名を母親にシフトしたのだと思われる。
監督はアメコミ作家! 秀逸デザインと微妙な改変ポイント
好奇心旺盛なサリーは“不思議な囁き声”に誘われて屋敷をさまようが、それを咎めた使用人のハリスが地下室で“何か”に襲われ大怪我を負ったことから、母キムも謎の解明に動きはじめる。オリジナル版では夫の支配から逃れられない女性の閉塞感が裏テーマになっていたが、本作は幼い娘を主人公にしたことで、『パンズ・ラビリンス』的な“おとぎ話”風味を増したダークファンタジーみが強まっている。
監督を務めたのはカナダのコミック作家、トロイ・ニクシー。2007年に制作した短編『Latchkey’s Lament』をデル・トロに観せてアドバイスを求めたところ、いきなり長編映画、つまり本作の監督を打診されたという。この作品以外に目立った監督作はないが、トゥース・フェアリーのデザインは監督自身によるもので、不気味かつ憎らしいルックスが嫌悪感を抱かせる。
惜しむらくは、そのトゥース・フェアリーを序盤から見せまくってしまったところだ。デル・トロはニクシーならばビジョンの共有も容易だと思ったのかもしれないが、お互いサービス精神旺盛かつクリーチャー愛が強すぎたためか、もはや「まっくろくろすけ」よりもレア度が低いという、潜伏系クリーチャーにあるまじき自己主張の強さで恐怖を削いでしまっている。
それでもケイティ・ホームズが演じたキムは母親(女性)の強さを表現していて、オリジナル版の神経質で無力な“籠の中の妻”よりもフィジカルに活躍する。それが出まくりクリーチャーと同じく<闇>に託された本質的なメッセージを弱める一因にもなっているのだが、まるでオリジナル版の伏線を回収するかのような展開もあり、その点においてはエンパワメント感も付与されている。
本作のトゥース・フェアリーは『千と千尋の神隠し』(2001年)の「釜爺」を干物にしてから水で戻したみたいにも見えるが、作品の設定自体ところどころ“ジブリみ”があり、スリラーやホラーが苦手でも比較的観やすい作品ではある。オリジナル版と比べてみるのも面白いので、ぜひ併せて鑑賞してみてはいかがだろう。
『ダーク・フェアリー』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2024年11月放送