横暴な大企業に天誅! 詐欺師が正義に目覚める?
コルカタの刑務所から脱獄したタミル人の詐欺師・泥棒の“カッティ(刃物)”ことカディル。この男には、建物や都市の平面図(劇中でブループリントと称される)から、その立体的な構造を透視できる特殊能力がある。脱獄にもこの特技を使ったのだ。彼はひとまずチェンナイに逃げて、そこからバンコクへの高跳びをはかるが、空港で出会った女性アンキタに一目惚れして出国を止めてしまう。
その夜、街路を歩いていた彼の目の前で突然銃撃事件が発生。カディルが撃たれた男のもとに駆け寄ると、その負傷者は彼と瓜二つの見た目だった。そこでカディルは悪知恵を働かせ、そのジーヴァという男を自分の身代わりにして追っ手に捕まえさせる。自由になったカディルだったが、ジーヴァが取り組んでいた地方の農民が直面する問題を知ると彼の心に変化が起こり、ジーヴァの活動を引き継いで農民たちの先頭に立ち、多国籍企業のトップと対決することに――。
見どころ盛り沢山! 娯楽性と社会的メッセージが見事に融合
本作は、冒頭から激しいアクションと軽快な演出で観客の心をつかみます。10年前の作品ながらズレを感じるところはまったくなく、制作年を知らずに観たら最新のインド映画と勘違いしてしまうかも? 約2時間半の上映時間に、テンポの良い展開の合間にキレキレのダンス&ソングが差し込まれ、そのたびに爽やかな風が体を吹き抜け(たのではと錯覚させ)ます。
しかも、インドに進出した多国籍清涼飲料メーカーの製造工場が環境破壊を起こしていること、その工場用地の取得にあたり農民たちから土地を不法に奪っていることを告発する、骨太な面も。さらに、さまざまな不正に対して、“映え”や“引きの強さ”だけでネタとして扱うマスコミに対するアンチテーゼも込められており、日本から見ても共感できるポイントは少なくない。本作でヴィジャイが体現するのは、搾取される人々の“届かぬ悲鳴”を汲み上げ、そのうえでエンタメ作品として多くの目に届ける<あるべき主人公の姿>です。
ヴィジャイ初体験という方には、2019年の主演作『ビギル 勝利のホイッスル』がテレビ放送された際の安宅直子先生による解説記事(※下記リンクより)がオススメ。コアなファンにはお馴染みかと思いますが、インド映画における“一人二役”についても触れられているので、本作の見どころを紐解くヒントにもなるでしょう👇️。
『カッティ 刃物と水道管』は2024年11月1日より新宿ピカデリーほか全国順次公開中