「ほぼセリフなし」なのに吹替は有名歌舞伎役者！な漂流サバイバル劇『オール・イズ・ロスト～最後の手紙～』

絶望に直面した男は、まず何を覚悟したか

ことの起こりは8日前。インド洋をヨットで単独航海中の男は水音で眠りから覚める。気が付けば、船室に浸水が。海上を漂流していたコンテナが激突し、ヨットに横穴が開いてしまったようだ。航法装置は故障し、無線もラップトップも水浸しで使い物にならない。しかし、この災難は始まりに過ぎなかった。

『オール・イズ・ロスト～最後の手紙～』©2013All Is Lost LLC

雨雲が迫り、雷鳴がとどろき、やがて襲いかかる暴風雨。嵐が去った後に、男は過酷な現実に直面する。ヨットは決定的なダメージを受け、浸水はもはや止めようがない。ヨットを捨てることを決意した男は食糧とサバイバルキットを持って救命ボートに避難する。ここはいったいどこなのか？ 助けはやってくるのか？ ボートへの浸水、サメの襲撃に加え、飲み水や食糧は底を突き、危機的な状況は続く。ギリギリまで踏ん張ったものの、望みは確実に断たれようとしていた。

運命に見放されようとしたとき、男は初めて自分自身の本当の気持ちと向き合う事になる。そして、一番大切な人に向けて読まれるかどうかもわからない手紙に、偽りのない気持ちをつづり始める……。

『オール・イズ・ロスト～最後の手紙～』©2013All Is Lost LLC

わずか4シーンの日本語吹替に挑んだ有名人は誰？

本作を観ていると、ふと気づくことがある。セリフが全然ない……！ たった一人で漂流しているのだから、口数も少なくなって当然だ。無駄に喋れば喉が渇くし、少しでも体力を温存しておきたい。しかし、その“リアル”を劇映画に持ち込んだ勇気たるや、佇んでいるだけで絵になる名優レッドフォードではければ託せない演出と言えるかもしれない。

レッドフォード演じる漂流者は、パニックに陥ったりもしない。貨物船が通りかかれば必死で存在をアピールもするが、マンガのように大きく落胆してみせたり、さめざめと泣いたりはしない。その落ち着きようには、一人旅におけるトラブルに慣れた熟練ぶりを感じさせる。“静かな本能”とでも言うべき達観した様子は、あえて曖昧にしたであろう演出と相まってファンタジックですらある。

『オール・イズ・ロスト～最後の手紙～』©2013All Is Lost LLC

そして！ そんな本作の日本語吹替版に抜擢されたのが、あの市川海老蔵（十三代目 市川團十郎 白猿）だ。最小限のセリフに少しでも重みや威厳を持たせようという狙いもあっただろう。本作が吹替デビューだった海老蔵は、わずか4シーンのセリフにも苦戦したとのこと。当時は「もうやらない」と苦笑していたが、その後『ハン・ソロ／スター・ウォーズ・ストーリー』（2018年）でカメオ吹替に挑戦している。

『オール・イズ・ロスト～最後の手紙～』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2024年11月放送

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