『八犬伝』に「東海道四谷怪談」が登場する<意義>
「東海道四谷怪談」は江戸時代後期に活躍した歌舞伎狂言の作者、鶴屋南北による歌舞伎脚本。怪談を扱った脚本の代表作で、通称「四谷怪談」としても知られている。1825年初演。塩冶や家の浪人民谷伊右衛門が女房のお岩を殺し、後妻の縁で出世しようとするが、お岩の亡霊に悩まされる……というストーリー。貧しい浪人の生活、どん底にあえぐ下層階級の人々の生態が生き生きと描かれている。
映画『八犬伝』では、滝沢馬琴が親友である葛飾北斎に誘われて、鶴屋南北の新作として「東海道四谷怪談」の舞台を観るシーンが登場。舞台を観た馬琴は、忠臣蔵の実話に怪談話の虚構をはめ込んだ物語に、辻褄が合わないと違和感を抱き、南北に疑問をぶつける。
すると南北は「悪しきものが栄えるこの世の中こそ、辻褄があわない世界だ」と持論を展開。それに対し馬琴は、「悪が蔓延る世の中だからこそ、物語の中でも勧善懲悪を貫くのだ」と反論するものの、南北の言葉に自身の信念が揺らぐことを感じてもいた。
――頑固で偏屈、自分の信念は絶対に曲げない人物として知られていた馬琴の考えすらも揺るがす、南北の問答。監督の曽利文彦は「本作のテーマが集結されている」と語っており、「馬琴も南北も、どちらの考えも必要であり、永遠に問答し続けることが大切だと思います」と、本作に「東海道四谷怪談」が登場する意図を述べている。
驚きのキャストで再現!『八犬伝』でしか観られない「東海道四谷怪談」とは
1825年に演じられた「東海道四谷怪談」は、民谷伊右衛門役を七代目 市川團十郎、お岩役を三代目 尾上菊五郎が演じていた。そして本作では、民谷伊右衛門役を中村獅童が、お岩役を尾上右近が200年の時を越えて演じる。
さらに、その時代を忠実に再現するために、歴史ある建築物をそのままロケ地として登場させており、現存する日本最古の芝居小屋である香川県の金丸座で「東海道四谷怪談」が上演される設定となっている。時代を越えて再現される歌舞伎シーンにもぜひ注目したいところだ。
このように『八犬伝』の世界観は、キャスティングやロケ地などにもこだわり抜いて作り上げられた。江戸時代にフィクションを描く作家の信念として、滝沢馬琴の勧善懲悪への向き合い方と、鶴屋南北の実話と虚構の捉え方にフォーカスしても楽しむことができるだろう。
曽利監督は「役所さん演じる馬琴さんが、言葉として、音として、演技として語りかけてくると、改めて響きました。エンターテインメントを、これからも堂々と大手を振ってやり切りたいという清々しさが、自分自身にも再び沸き起こりました。悟りを開いた高僧に、心の臓を突かれたような気持ちです。この映画のテーマは日本文化だけに留まるものではないので、ぜひ世界中の方に観ていただきたいですね」と語っている。
この秋、『八犬伝』で日本文化の背景と作家の信念に触れ、今の時代だからこそ映像化が叶った無二の世界観を、映画館の大スクリーンで目撃されたし。
『八犬伝』は2024年10月25日(金)より全国ロードショー
『八犬伝』
江戸時代の人気作家・滝沢馬琴は、友人の絵師・葛飾北斎に、構想中の物語「八犬伝」を語り始める。里見家にかけられた呪いを解くため、八つの珠を持つ八人の剣士が、運命に導かれるよう集結し、壮絶な戦いに挑むという壮大にして奇怪な物語だ。北斎も魅了した物語は人気を集め、異例の長期連載へと突入していくが、クライマックスに差しかかった時、馬琴は失明してしまう。完成が絶望的な中、義理の娘から「手伝わせてほしい」と申し出を受ける──。失明してもなお書き続けた馬琴が「八犬伝」に込めた想いとは。
原作:『八犬伝 上・下』 山田風太郎(角川文庫刊)
監督・脚本:曽利文彦
出演:役所広司、内野聖陽、土屋太鳳、渡邊圭祐、鈴木 仁、板垣李光人、水上恒司、松岡広大、佳久 創、藤岡真威人、上杉柊平、河合優実、栗山千明、中村獅童、尾上右近、磯村勇斗、大貫勇輔、立川談春、黒木華、寺島しのぶ
制作年: | 2024 |
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2024年10月25日(金)より全国ロードショー