配信なし、DVDも廃盤の隠れた衝撃作【TV放送あり】
『8mm.』はニコラス・ケイジ主演、ホアキン・フェニックス共演というだけで豪華な感じがするが、ほかにジェームズ・ガンドルフィーニ、ピーター・ストーメア、キャサリン・キーナーという実力派ベテラン俳優が集結している。さらに同年制作/翌2000年公開のカルトヒット作『処刑人』でブレイクすることになるノーマン・リーダスも出演していて、なにかと見どころが多い。
監督はジョエル・シュマッカーで、『バットマン & ロビン Mr.フリーズの逆襲』(1997年)が本国で大コケした後の作品。とはいえ大バジェット作品を手掛けてきたシュマッカーの“魅せる”演出が随所にあり、全体的にリッチな仕上がり。ただ、それが良い方向に働いたかといえば微妙なところで、もし低予算のインディー映画として質素に撮られていたら……と思わずにはいられない。
小説版について先述したのは、お話としては最高に面白く、どうにでも料理できただろうと思うからだ。“映画の小説化”を専門としていたレオノーレ・フライシャーの最後期の作品で、いまだに原作小説と勘違いしている人もいるかもしれない。それくらいクライム~ミステリー小説としても完成度が高く、読んでから観た人は映画への期待が高まりすぎたかもしれない。
公開時の評価は微妙、だけどコアなファンが多いカルト作
本作最大の衝撃は物語序盤、依頼人からスナッフ映像を見せられるシーンにつきる。粒子の粗い無音映像の中で、中世の拷問人のようなマスク姿の大男が、恐怖に涙する下着姿の少女をナイフでメッタ刺しにする……もちろん直接的な描写はないが、額に脂汗を浮かべたケイジの表情がその悲惨さを物語る。
中盤過ぎまでは映像の制作者を追う探偵パートだが、ターゲットが定まってからはミステリーのセオリーを無視した暴走映画といった趣に。当時20代のホアキンやノーマンを拝むためだけに鑑賞するファンもいるようだが、ネット以前の“イリーガルの墓場”みたいな闇市のシーンなどは、まるでナイン・インチ・ネイルズのミュージックビデオのようでグッとくる。
いま本作を観てゾッとするのは、ネット上のどこかに娯楽目的のスナッフ映像が本当に存在するかもしれない、という予感が成立するところだ。劇中でも“今後のネット普及”についてのセリフがあるが、当時はすんなりイメージできるものではなかった。そして恐るべきはずの黒幕の“凡庸さ”には、クライマックスを前にずっしりとした絶望を感じさせられるのだった。
『8mm.』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2024年10月放送