「人間の胸を食い破る」エイリアンの<リアル>とは?
アルバレス監督が目指したのは、究極のリアリティが生み出す生々しい恐怖だ。そのため彼は、企画段階からCGには頼らず、クリーチャーから宇宙船のセットに至るまで、あらゆるものを実際に作り上げることにこだわっていた。
そんな本作のなかで、とくに“本物の恐怖”を体感できるシーンが、1作目の『エイリアン』でも見られた、<人間に寄生した謎の生命体が、突如として胸部を突き破って登場する>という衝撃的な場面だ。
この場面についてアルバレス監督は、「過去に観たものとは少し違うバージョンを観ることになると思います」と語っている。その“違い”を生み出したのが、発展を遂げた<人形を操る技術>や<ロボット技術>。その結果、エイリアン等の現実離れしたクリーチャーでさえ、あたかもそこで生きているように動かすことができるようになった。
追い求めたのは安易なバイオレンスじゃない、“本物の生物”との対峙
そうした最新技術を駆使することにした経緯について、監督は「自然でリアルなものにしたかった、それを見た時、“ネイチャー・ドキュメンタリー”に感じられるようにしたかったんです」と明かす。とはいえ、自然のありのままを捉えるドキュメンタリーと、恐ろしいクリーチャーが登場するSFホラーは対極のジャンルのようにも思えるのだが……。
ショックを与えたり、その瞬間の“バイオレンス”に重きを置くことはしたくなかった。この生き物が現実世界に存在したら、どういったものになるか――それを表現したかったんです。
つまりアルバレス監督が目指していたのは、<エイリアンが実際に存在する世界>をカメラに収めること。まさにエイリアンに命を吹き込み、本当に今そこで進化を遂げ、誕生したかのように錯覚させる――そんなリアリティに心血を注いだのである。
「『エイリアン』を全く観たことがない人たちが本当に羨ましい。なぜなら……」
映画ファンにはお馴染みの“チェストバスター”。観客にエイリアンの恐怖を植え付けるためにもっとも重要であろうこのシーンに注いだ熱い想いについて、監督は次のように振り返る。
私はあのシーンを本当に誇りに思っています。最高にうまく撮れたシーンのひとつだと思います。そして、これらの映画を全く観たことがない人たちが本当に羨ましい。なぜなら、映画館に入っていって、何が起こるのか、このクリーチャーが何なのか全く知らないまま、この映画を観ることができたら……と思うからです。なんてことでしょう。そういった人たちは、きっと驚くと思います。
当時『エイリアン』を観た者がもれなく恐怖し、一生消えることのないトラウマを抱えることになったレジェンド級クリーチャー、ゼノモーフ。エッグチェンバー(卵)から孵ったフェイスハガー(第1形態)が人間の顔面から寄生し、やがて胸を食い破って体外に出てくる幼体第2形態、それがチェストバスターだ。
過去シリーズでは曖昧なままだった、このクリーチャーを実在する生物として捉えた際の「VS人体」描写を、いかにリアルなものにするか? 数々の大物監督から信頼を得てきたアルバレス監督自身が「最高にうまく撮れた」と語るチェストバスター登場シーンを、ぜひ劇場の大スクリーンで<体験>してほしい。
『エイリアン:ロムルス』は全国公開中