大自然の中で84年間暮らしてきた老父が語る、人生の真理
本作は、オルデダーレンの渓谷で生まれ84年間ここで生きてきたヨルゲンに、その娘であるマルグレート・オリン監督が密着し春から翌年の春にかけて撮影が行われた。このたび解禁となった本編映像は、秋にヨルゲンがお気に入りの場所に出かけた様子を捉えたものだ。
木々の色は黄色へと変わり始め、この季節には珍しく雨が降る中、野生の馬と触れ合うヨルゲン。晴れたある日、いつものようにハイキングに出る。いつもの場所に腰をおろし、いつものように用意してきたコーヒーとパンを味わい、そこにただ居るのだ。ヨルゲンの心情を表すような「ただ人生について考える。いい時も、悪い時もある。人生をよくするためにできることは?」などという彼の言葉がナレーションとして流れる中で、観る者の心を静かに、穏やかにさせてくれるシーンである。
そんな美しい風景はもちろん、雨が落ちる音、木々が揺れて葉が触れ合う音、鳥たちの鳴き声、激しく流れる川の音……映像ではヨルゲンを取り巻くあらゆる音を丁寧に拾っていることが確認できるので、ぜひイヤホンで視聴してみてほしい。
「この映画はゆっくりと進んでいく。私たちは、やることなすことすべて急ぎすぎているから」
こうした“音”の録音は毎日行ったととのことで、監督は「撮影では撮影監督とドローンのカメラマンと録音技師がいつも一緒に動いていたんですが、録音の方には時に別行動をしてもらっています。父が山を歩いていく時の息遣いや足音を撮ることに集中したり、自然の音を撮ると決めて録音してもらうためです」と、その意図を語る。
そしてヨルゲンが腰を下ろし、ひとりでゆったりとした時間を過ごすこの場所が、彼にとってこれまでもずっとそうしてきた場所であったことを、監督自身も映画の撮影を通じて初めて知ったという。そのことについて、監督はこう明かしてくれた。
父は「いつもここに座って自分のことを内省するんだ」と教えてくれました。彼はひとり自然の中で、自分の人生を振り返り、家族について考えてきたのだと。父はとても穏やかな人で一度も声を荒げたことがないんですが、それを聞いて、なぜそういう性格なのかやっと理解できた気がしたんです。
雄大な自然と一体になりながら生きてきたヨルゲン。父がここで見つめてきたものに迫ることを通じて、何を描こうとしたのだろうか。最後に監督がメッセージを寄せてくれた。
この映画はゆっくりと進んでいきます。なぜなら、今日の私たちはやることなすことすべてが急ぎすぎて、ペースが速すぎるから。観客には身を乗り出して、父や自然からの贈り物をただ受け止めて欲しいですね。
『SONG OF EARTH/ソング・オブ・アース』は2024年9月20日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ、シネマート新宿ほかにて全国公開中