「魔女なんかよりも、社会の方がよっぽど邪悪」
―本作は“魔女”を描いていますが、超自然的な存在としてではなく、女性が持つセクシュアリティをテーマに据えているように見えますね。
ホラー映画の基本は、やはり「観客に対して恐怖を提示する」ジャンルです。その点、ホラー映画の「魔女」といえば、“邪悪で超自然的な力”で、人々の生活を脅かして破壊する存在といった認識が一般的だとは思います。私は、その見方を変えたいと思ったんです。魔女の歴史を俯瞰してみると、社会に順応できない、あるいは風変わりな女性を魔女として避けてきた、蔑視の歴史とも言えます。これは依然として現代社会でも続いています。
―ただの違和感を“悪”と決めつけてしまう社会こそが邪悪だと?
そうです。魔女なんかよりも、社会の方がよっぽど邪悪だと思います。その邪悪な部分を女性の観点から客観視して、女性のセクシュアリティはもちろん、女性の力を描きたかったんです。家父長制がある村社会において、女性は自身の行動をコントロールされてしまう。当然、男性側も女性の力によって何かしらのコントロールを受ける。『ナイトサイレン/呪縛』のシャロータはコントロールされた社会からの解放を目的に、様々な行動をとります。究極的には私自身が日々感じていること、セクシュアリティへの理解、そして現代社会の薄暗い部分を描く考えるために本作を制作しました。
―村をあえて題材にしたのはなぜですか?
コントロールされた人間と自然のコントラストを用いて、抑圧と解放をドラマティックに描きたかったことが挙げられます。またスロヴァキアでは、小さなコミュニティの方がエモーショナルなんです。本作では極端な感情表現を行いたかった。その点、街よりも村の方がより自然に感じられると考えました。
「子どもを欲していない女性や性的マイノリティを異端視して、恐れている」
―欧州全体にはカトリック特有の宗教観があると思います。本作とカトリックの宗教観に繋がりはありますか?
もちろん! 北欧や東欧はチェコを除いてカトリックの影響が強い地域です(※チェコは歴史的に無宗教が多数派)。ゆえに超保守的な考えを持つ人々が多く存在します。本作の脚本を作る際、人類学について調査したのですが、いまだに本作で描いたような“超保守的な村”は存在し、魔女を信じているそうです。
―冒頭に伺った現代社会における違和感につながる?
まさに。私はスロヴァキアのカトリック観には問題があると思っています。子どもを欲していない女性や性的マイノリティを異端視して、恐れている。いわば“教会”に受け入れられていない人々は、自分たちとは違うと。私自身、カトリックの洗礼は受けていますし、叔父は神父です。ただ、私はこういったカトリックの組織には属したくありません。なぜなら、この宗教が政治にも影響を及ぼしているからです。人工中絶禁止がいい例です。当然の権利を奪って人々の生活をがんじがらめにしようとしています。
―とても信念をもった監督であると感じました。なぜ監督業に携わろうと考えたのですか?
エモーショナルなものであれ、ロジカルなものであれ、物語が人々に会える影響に魅せられたんです。宗教もそうですよね? 聖書の物語が人々を引きつけているわけです。映画は脚本、音楽、映像と全てが一体となって物語を紡ぐことができる。さらに加えてチームでないと作れない。人々を繋ぎ、自由に物語を構築できる。こんなに楽しいことは他にありません。
【テレザ・ヌヴォトヴァ(監督)】
1988年生まれ。チェコスロヴァキア・トルナヴァ出身の映画監督。女優としても活躍。デビュー作である『Filthy/Špina』は、ロッテルダム国際映画祭でプレミア上映されると、世界中の映画祭で数々の賞を受賞。HBOヨーロッパは彼女の長編デビュー作と2本のドキュメンタリーを共同製作した。最新のHBOドキュメンタリー『The Lust for Power』は映画評論家から絶賛され、政治におけるポピュリズムと腐敗について熱い議論を巻き起こした。現在、AGBOプロダクションで長編第3作『Father』(SK, CZ)、TV短編シリーズ『Convictions』(SK, CZ, FR)、『The Nurse』(US)を製作中。
聞き手:氏家譲寿
『ナイトサイレン/呪縛』は2024年8月2日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、池袋シネマ・ロサ、シネマート新宿ほか全国公開