“胸糞映画”で知られる監督といえば?
登場人物が酷い目に遭うさまを見せつけることで観客に深いトラウマを植え付ける、いわゆる“胸糞”映画で知られる監督といえば? という問いに真っ先に挙がるのは、どんな名前だろうか?
病を抱える主人公に貧困や冤罪まで負わせた『ダンサー・イン・ザ・ダーク』(2000年)のラース・フォン・トリアーか、男尊女卑がデフォルトな時代で性に目覚める修道女を描いた『ベネデッタ』(2021年)のポール・ヴァーホーヴェンか、猟奇殺人を追う刑事の家族を容赦なく巻き込んだ『セブン』(1995年)のデヴィッド・フィンチャーか、いくつもの感動作を手掛けておきながら伏兵『ミスト』(2007年)で不意打ちを食らわせたフランク・ダラボンか、感動スポーツものかと想いきやド級の爆弾を落として消灯する『ミリオンダラー・ベイビー』(2004年)のクリント・イーストウッドか……。
しかし、どの監督/作品も後味の悪さと引き換えに一生モノの感動を与えてくれることは事実だ。今回ご紹介するミヒャエル・ハネケも、カンヌ国際映画祭の最高賞パルム・ドールを何度も受賞するなど輝かしい実績を持ちながら、“人を選ぶ”作風にも定評のある名監督である。
Feliz aniversário, Michael Haneke! pic.twitter.com/0jlfUsH5GE
— MUBI Brasil (@mubibrasil) March 23, 2022
カンヌ映画祭グランプリ受賞『ピアニスト』の衝撃
1989年に長編映画デビューするや<感情の氷河期三部作>と呼ばれる初期3作で注目を集めたハネケ監督。そして1997年の『ファニーゲーム』が世界中で物議を醸し、早くも“胸糞監督”の冠を賜ることとなる。そんなハネケに批判と称賛が同じくらいぶつけられた作品が、39歳女性の“倒錯した性”を描くラブ・サスペンス『ピアニスト』(2001年)だ。
「美しい調べにのせて中年女性の心の闇を描きだす異色のラブ・ストーリー」……と簡単にあらすじを説明すると、サスペンス要素が多めの泥沼系オトナの恋愛映画かな? などと勘違いしてしまいそうだが、いや完全に間違っているというわけでもないのだが、とにかくあらゆる設定やディテールが強烈すぎて、かなり覚悟(注意)して観る必要がある。
次ページではその“強烈なシーン”を一部紹介するので、物語の詳細には触れないがネタバレ絶対NGの方にはスルーを推奨したい。
『ピアニスト』
ピアノ教師のエリカは、40歳を過ぎ、ウィーン国立音楽院のピアノ教授となった今も、厳格な母の支配から逃れられず、流行りの服も恋愛も許されずにいた。ある日、私的な演奏会の席で美しい青年ワルターに出会い、彼から情熱的に求められる。しかし、エリカは歪んだ秘密を抱えており・・・。
監督・脚本:ミヒャエル・ハネケ
出演:イザベル・ユペール ブノワ・マジメル アニー・ジラルド
制作年: | 2001 |
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CS映画 ムービープラスで2024年7月放送