演者も監督も「デビュー」づくしの瑞々しさ
本作は、いわゆる“バイク(自転車)2人乗り”が印象的に登場する近年のアジア青春映画に連なる作品である。同じくタイの『プアン/友だちと呼ばせて』(2021年)や中国映画『ソウルメイト/七月と安生』よりも感情移入しやすいが、“双子”が絡む三角関係はこれ以上ないほど超近距離だ。
主人公のユーとミーを演じるのは、これが映画デビュー作となるティティヤー・ジラポーンシン。前情報を入れずに観れば、本当の双子と見間違えてしまうだろう。また、ユーとミーの心を奪う誠実な少年マークを演じたアンソニー・ブィサレーも本作が映画初出演。彼自身ベルギーとタイの両親を持ち、オラオラ要素が微塵もないソフトなイケメンである。
そして監督のワンウェーウ・ホンウィワットとウェーウワン・ホンウィワットも、これが長編映画デビュー作。彼女たち自身が一卵性双生児の姉妹であり、歳の離れた姉妹とも同い歳の女友達とも違う、双子姉妹だからこそ感じられる繊細な感情を、ユーとミーを通して見事に描いてみせた。
タイ版A24こと<GTH>の先鋭チームが結集
本作はプロデューサーに、日本でも話題を呼んだ祈祷師ホラー『女神の継承』(2021年)の監督でもあるバンジョン・ピサンタナクーンが名を連ねている。国外でも注目される彼が自身のフィルモグラフィとは大きく異なる恋愛映画のプロデュースを買って出たことからも、『ユーとミー』への期待値の高さがうかがえる。
そして製作・配給を手掛けるのは、“タイ版「A24」”と称される大手映画スタジオ<GTH>。ホラー映画を得意とするが、日本でもコアなファンを生んだオークベーブことチュティモン・ジョンジャルーンスックジン主演作『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』(2017年)や『ハッピー・オールド・イヤー』(2019年)など、近年の話題作をことごとく手がけている。
大都市だけじゃないタイの魅力とY2Kノスタルジー
本作は、メイン舞台が大都市バンコクではなく東北部のイサーン地方ということも見逃せない。バンコクに行くと街中の看板やテレビCMにはK-POPアイドルのように色白なモデルたちが出ずっぱりで、困惑した人もいるだろう。イサーン地方の人々には田舎っぺというイメージがあるそうで、そこにはうっすらとした選民意識も浮かび上がる。
しかし、日本で愛されるタイ文化の中にはイサーン発のものが多く、例えばレコードマニアはまだ見ぬレア盤を求めてタイの地方都市へディグりに行くというし、移民たちによって形成された多言語文化でしか味わえない唯一無二の魅力がある。例えば日本人観光客にも大人気の台湾南部のように、タイに行くなら都市部よりもイサーンやチェンマイという人は少なくない。
そんな本作の物語の舞台は1999年だが、1人2役を効率よく見せる狙いもあるのだろう、TikTok動画風の画角が用いられているあたりも面白い。Y2Kリバイバル全盛の今、このタイ映画は若い世代の目にも新鮮に映るはずだ。
『ふたごのユーとミー 忘れられない夏』は2024年6月28日(金)より新宿ピカデリーほか全国公開