1 2
「映画愛」を描いたアカデミー賞インド代表作
2023年の第95回アカデミー賞の裏テーマは、“映画愛”だったように思う。
巨匠スピルバーグ初の自伝的物語『フェイブルマンズ』、若手実力派デイミアン・チャゼルが1920年代のハリウッド黎明期を絢爛に描いた『バビロン』、イギリスが誇る名匠サム・メンデスが1980年代初頭の映画館を舞台に多様な人々の交流を描いた『エンパイア・オブ・ライト』など、映画にまつわる作品が多数ノミネートされていた。
そして同じく映画をテーマにした、インド発の自伝的物語が『エンドロールのつづき』だ。惜しくもノミネートは逃したが、同年のアカデミー賞国際長編映画賞インド代表に選出された本作。歌曲賞ノミネートの『RRR』が代表になっていたら……という声もあったが、この傾向を振り返ると選出は必然だったのかもしれない。
なんと(ほぼ)実話! 監督の実体験が感動の人間ドラマに
公開前から『フェイブルマンズ』との奇跡的な類似性も話題となった『エンドロールのつづき』。貧しいチャイ売りの少年が映画に恋をして……という物語は“インド版『ニュー・シネマ・パラダイス』”とも称され、インド映画ファンだけでなく幅広い層から注目を集めた。
しかも本作は、監督のパン・ナリン自身の実話がもとになっている。そこに敬愛するスタンリー・キューブリックら名監督や名作映画へのオマージュを散りばめ、幸せで希望あふれる物語に仕上げてみせた。“歌って踊る”イメージが定着しつつあった日本におけるインド映画のイメージを、いい意味で裏切る作品だったのだ。
1 2