「必ず落として見せるさ、俺の“娼婦”にする」
ドイツ人への復讐のために次々と女性を誘惑。“女性たちの心を壊していくこと”で復讐を果たし続けるが、その裏では圧倒的な<孤独>を抱えるフィリップ。人種を超え<運命>と信じたフィリップと共にあろうとするドイツ人のリザ。いつも軽口フィリップの心を軽くする同僚、だが、実際は戦争の不安から逃れられない<仲間>ピエール。政権を嫌い、どんな罰を受けても自由奔放に異性と交わることを厭わない<自由>を手放さないブランカー第2次世界大戦の戦禍、人種、性別、恋愛—理不尽な差別を受け続ける中でも自分らしくあるために生き方に迷い、同時に貫こうとするものたちの姿を捉えた映像となっている。
ポーランドの作家レオポルド・ティルマンド(1920-1985)の自伝的小説としてポーランド当局の検閲の後大幅に削除されたものが1961年に出版された小説「Filip」。ティルマンド自身が1942年にフランクフルトに滞在していた実体験に基づいて書かれたこの小説、発刊後すぐに発禁処分。長い間陽の目を見ることがなかったが、2022年になってオリジナル版が出版された。
監督は、1990年代よりテレビプロデューサー兼演出家としてキャリアを重ね、21世紀に入って以降はポーランドの巨匠アンジェイ・ワイダ監督作品のプロデューサーとして、後期代表作である『カティンの森』、『ワレサ 連帯の男』、そして遺作『残像』まで製作を勤め上げた、ミハウ・クフィェチンスキ。その事実から導き出す魂の解放・自由奔放な姿を第2次大戦、ナチス支配下のドイツを舞台に官能的な要素を加えて本作を映画化、その大きな理由のひとつとして「ポーランドで愛する人を亡くしたユダヤ人の主人公は、そのような状況下で何を感じるでしょうか?私はティルマンドの本を心理的で緻密な映画にし、トラウマから感情が凍り付いた男の孤独を研究することに決めました」と明かしている。
『フィリップ』は6月21日(金)より新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座、アップリンク吉祥寺ほか全国公開