ベルイマン&アルトマンが描いた“女性同士”の妙
ヘインズ監督は、同じくベルイマン監督の『秋のソナタ』(1978年)や、ロバート・アルトマン監督の『三人の女』(1977年)のタイトルも挙げている。いずれも女性同士の関係を描く作品だが、『秋のソナタ』では奔放に生きる母と彼女に不満を抱える娘の心の葛藤を、そして『三人の女』では看護師と見習い、その二人の住むアパートを管理する老婦人という三人の女性の関係性をミステリアスに描いている。
さらに本作の劇中、エリザベスから疑惑の目を向けられるグレイシーと超年下夫のジョー(チャールズ・メルトン)の関係のように、“年上女性と若い青年の関係を描いた作品”として挙がったのは、往年の大女優と若手脚本家の関係を描いた『サンセット大通り』(1950年)と、ダスティン・ホフマン演じる主人公の青年が花嫁を奪い去るラストシーンが有名な『卒業』(1967年)だ。
『卒業』の“年の差”沼シチュエーションと『日曜日は別れの時』の印象的ラスト
『卒業』は主人公と人妻との関係という設定以外にも、カット割りでサスペンスやコメディの要素を演出しているところも参考にしたという。また、年増の男女と青年との三角関係を描いた『日曜日は別れの時』(1971年)のラスト、熱情と平静がないまぜになった印象的な対面シーンも、本作のラストに影響を与えていると明かしている。
時にシンクロし、時に対峙するふたりの女性、年齢の離れた女性と男性の恋、隠された感情、考察と妄想が肥大化していく過程……。複雑に絡み合う要素を漏らすことなく語ることを望んでいたヘインズ監督が、これらの作品からの影響を自身の映画に落とし込み、観客に向けていくつもの疑問を投げかける。
実際のスキャンダルを基に映画化した『メイ・ディセンバー ゆれる真実』は、映画好きならばピンとくるであろうシーンも盛りだくさん。事件の顛末や各キャラクターへの考察を粉々に砕いてみせる衝撃の結末を、ぜひ劇場で確かめよう。
『メイ・ディセンバー ゆれる真実』は2024年7月12日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開
『メイ・ディセンバー ゆれる真実』
全米に衝撃を与えた、実在の“メイ・ディセンバー事件”。当時36歳だった女性グレイシーは、アルバイト先で知り合った13歳の少年と情事におよび実刑となった。少年との子供を獄中で出産し、刑期を終えてふたりは結婚。その後夫婦は平穏な日々を送っていたが、事件の映画化が決定し、女優のエリザベス(ナタリー・ポートマン)が、映画のモデルになったグレイシー(ジュリアン・ムーア)とジョー(チャールズ・メルトン)を訪ねる。彼らと行動を共にし、調査する中で見え隠れする、あの時の真相と、現在の秘められた感情。そこにある“歪み”はやがてエリザベスをも変えく……。
≪よそ者であるエリザベスの憶測≫と≪当事者の意外な本心≫≪新たな証言≫すべてが絡み合い、観ている貴方の真実もゆらぎ始める。
監督:トッド・ヘインズ
脚本:サミー・バーチ
原案:サミー・バーチ、アレックス・メヒャニク
出演:ナタリー・ポートマン、ジュリアン・ムーア、チャールズ・メルトン
制作年: | 2023 |
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2024年7月12日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開