「アフレコは基本、“自分は気が狂った”と思いながらやる」
―本作に登場する“空想の友達”は、いずれも素晴らしいですね。どこから着想を?
空想の友達は、ほぼ全員、脚本を書きながら考えました。悠長に「どんなキャラクターにしようかな?」なんて先送りにする自信がなかったので。ブルー(カレル)、ブラッサム(フィービー・ウォーラー=ブリッジ)と、ルイス(故ルイス・ゴセット・ジュニア)は俳優と最も共演するメインの3人だから最初に書かないと、と思って。その後、インタビューのシーン(※フレミング演じるビーと、レイノルズ演じるカルヴィン、そしてルイスが、様々な空想の友達にインタビューを行う)を書くにあたって、「ここでは思い切り楽しめる」と思いました。そこで、自分の周りのものを入れだしたんです。
実は、僕らの2人の娘たちの、実際の空想の友達も映画に登場します。マーヤ・ルドルフ演じるピンクのワニは、7歳の娘の空想の友達です。「どうやって思いついたの?」って聞いたら、「私のベッドの下に住んでるだけだよ」と。「それ怖くないの?」と言ったら、「ううん。私の部屋に入ってくる悪い人を食べてくれるためにいるんだよ」と。「そりゃすごく良いな……」と思いました。
そして、溶けているマシュマロは長女の友達。彼女はとても感受性が豊かなんです。ある日、スモア(※焼いたマシュマロとチョコをクラッカーなどで挟んだお菓子)を作っていて、マシュマロに火がついてしまったら目に涙を浮かべていて。「このマシュマロはどうなっちゃうの?」と聞いてきたので、「心配ないよ。これが今の彼なんだ。燃えるマシュマロくんになったんだよ」と答えたら、それが気に入ったみたいで。それで彼は、彼女の空想の友達になったんです。
―娘さんたち以外のご家族も、この作品に関わっています。エミリー・ブラントがユニコーン誕生に協力したとか?
笑えるんですけど、ユニコーンは僕が考えたことはそうなんですが。デザインがあがったら、本当にぶっ飛んだキャラクターで。一番最初に作り出したキャラクターのひとりですね。ただエミリーが演じるまでは、あそこまでとは想像していなかった。エミリーの、あの太い笑い声(笑)。あれをやったとき、本人は「私、メンタルおかしく聞こえると思う」と言っていたけど、僕はバッチリだと思ったんです。本人も本当に楽しんでいたし。
アフレコは、本当に一人で何かを(手品のように)創り出さないとならないから大変です。セットにいる俳優であれば、セットがあって、照明があって、カメラがあって――それらが合わさって自分の脳にも“映画を作っているよ”と伝わる。でもアフレコのブースに一人でいると、そういったものが一切ない。なので基本“自分は気が狂った”と思いながらやるんです。
―キャストがとても豪華ですね。どうやって実現したのでしょう?
いや、本当に幸運でした。こんなに良いキャストは二度とないと思っています。また、友人と仕事ができるというのも間違いなく役得です。なので、全員に承諾してもらったのは大きかった。でも、もうひとつ僕にとって重要だったのは、みんなが本当に作品の核の部分と呼応してくれたというか。子どもがいてもいなくても、この作品の芯にあるものが、僕らがこの業界に入る理由そのものだったんです。
というのは、僕らはみんな空想(イマジネーションの力)を信じている。人生ずっと子どもでいられると思っているし、人生ずっと遊んでいていいと思っている。そのメッセージと、それを如何に大切だと思っているか? で全員、参加を決めてくれたんだと思います。僕のキャリアで、こんなに「イエス」をもらったことはない。二度とないでしょうね、絶対に。
―誰が、どの空想の友達を演じるかで競い合ったりは?
いいえ、あえて他の友達のことについて教えなかったから。画を1枚送って、「彼/彼女を演じてくれませんか?」と聞いたんです。最高でしたよ、映画のあらすじも何もまだ言っていない状態で、やりたいようにやってもらったから。キャラクターを見ただけで自然と出てくる声を出してもらったんです。
その後、製作が進んでVFXが入ってきた辺りで、どういうキャラクターなのかを見せていきました。例えば、スティーヴは最初にブルーを演じたとき、彼がどういう存在なのか全く分かっていない状態で。手描きの画を見せただけだったので。そして、シーンを見せるごとに彼の声がどんどん変化していくのが分かりました。俳優たるもの、そのシーンで彼が何をするのかを把握しだしたら、魔法を見ているようで。明らかに彼は「(役を)つかんだ」んです。めちゃくちゃ楽しかったですね。
「娘たちの評価だけが心配。小さなサムズアップ2つだと良いのですが」
―セットでは、実写部分の俳優たちの参考用にキャラクターのパペットを持っていました。どれが遊んでいて一番楽しかったですか?
ユニコーンで遊ぶのがすごく楽しかったですね。エミリーが彼女にたくさん魔法をかけてくれたから。でも、遊んでいて一番好きだったパペットは、今では作品で多分、僕の一番のお気に入りのキャラクターになっていて、それはコスモ(※クリストファー・メローニ演じる、50年代の一連のノワール・スパイ小説から来た私立探偵)です。
僕が肉付けしていく中で、すでに何かエネルギーを感じていました。「彼は普通のスピードでは機能できない。光速のような素早い動きをしないと」と思ったんです。彼はスパイなので、パッと現れたかと思うとパッと消える。だからパペットもライアンに飛びかかれるから、すごく楽しくて。(彼の)背中とか、肩とかね。
ある日セットで、ライアンから「一緒に仕事できて嬉しいよ。それと、コスモを操るのがすごく上手いから、脅威とみなしてる」なんて言われて。誉め言葉として受け取りましたけど。
―この作品は、ご自身の娘さんたちにインスピレーションを受けて誕生しました。が、子どもたちというのは、時に最も厳しい批評家です。彼女たちの感想は?
面白いのは、娘たちは本当に最初の段階から関わっていたんです。キャラクターの初期のスケッチも見せましたし、セットに連れて行って現場を案内して回りましたし、ケイリーがキャスティングされたらすぐに会わせました。僕にとって、この作品が素晴らしい経験になったのは、作品を娘たちと共有できただけじゃない。映画製作の世界を共有できたことなんです。だってもちろん、『クワイエット・プレイス』は共有なんてしなかったですから! なので、娘たちは初めて僕が何をしているのか見られたわけです。そして、どうしてこの仕事が大好きなのかも。
で、質問にお答えすると、娘たちがこの作品を観ること以上に、自分の作品を誰かに観られることに恐怖を覚えることはありません。実際、感情があふれかえってしまうかも。自分の心も魂も注ぎ込みましたから、“好きじゃない”となったら、どうしたらいいんでしょう。娘たちの評価だけが心配です。小さなサムズアップ2つだと良いのですが。
「“空想の友達”は、あなたの希望や夢、野心などのタイムカプセルです」
―『ブルー きみは大丈夫』を作るにあたって、児童心理学など、空想の友達が子どもにとってどういう役割を果たしているかリサーチされたそうですね。その学びのなかで驚きはありましたか?
いかに子どもたちが鋭いか。僕たち(大人)は子どもを過小評価している気がします。僕らが思う以上に、子どもたちは非常に(情報の)処理能力が高い。リサーチする中で、児童心理学では、“子どもたちは空想の友達を、最も必要としている事柄のために生み出す”と学びました。学校で虐められていたら、より大きな空想の友達を生み出して、守ってもらうか、抱きしめてもらう。子どもたちの空想の友達には、その子の生活の中で、実際に意味を持つ側面があるんです。
もし両親が離婚することになって、お父さんがいつもあるネクタイをしていたら、空想の友達もそのネクタイをしている。空想の友達は、子どもの実人生の延長線上にあって、だからこそ、僕も真剣に取り扱うことを目指しました。空想の友達は、ただ可愛いクリーチャーなのではなく、あなたの希望や夢、野心などのタイムカプセルです。それは僕らが断固として守りたいもの。この作品はたくさんの楽しさが詰まっていますが、僕にとっては、軽んじないということも大切でした。
―空想の友達は我々の一部が投影されている存在だとしたら、あなたが子どもの頃の空想の友達はどんな感じでしたか? そして、あなたのどういった部分を反映していたのでしょう?
サム・ブレイス(Brace)という空想の友達がいました。当時、兄が歯の矯正(braces)をしていたんです。僕としては、それが最高にクールに見えて。実際には全くクールじゃないと分かるんですが、でもそう思っていた。
ビデオショップが歩いて行けるところにあって。僕はそこに歩いていくとき、サムと一緒にアクション映画に出ている空想をしていました。一緒に色んな悪者をかわしたり、それからホラー映画に出ている空想も。小さすぎてホラー映画は観たことがなかったんですが。でも、狼男を想像しました。“悪い怪物”といえば狼男だと思っていましたから。
僕とサムで、たくさんのクレイジーな大冒険をしました。誰と話していたんだっけな……エミリーかも。あるときハッとなって、「なんてことだ、僕が映画(の世界)に入ったのは空想の友達の影響? それが回りまわって今につながったということ?」って。
『ブルー きみは大丈夫』は2024年6月14日(金)より全国公開