刑事と容疑者の歪な関係、やがて暴かれる真実
第35回モスクワ国際映画祭で日本映画48年ぶりとなる審査員特別賞の快挙を始め、数々の国内賞を受賞した映画『さよなら渓谷』のタッグが実現した『湖の女たち』。介護施設での殺害事件を発端に、刑事と容疑者の衝撃的な関係の行方と事件に隠された真実が暴かれていくストーリーは、強烈な映画体験をもたらす重層的な構造と壮大なスケール感でもって、観る者の理性と感性を激しく揺さぶり圧倒する。
事件が混迷を極めるなかで、身も心もさらけ出す難役に挑んだのは、西湖署の若手刑事・濱中圭介役を演じた福士蒼汰と、事件が起きた施設の介護士・豊田佳代役を演じた松本まりか。圭介と佳代の歪んだ関係は、闇夜の湖畔で艶めかしい“生”の輝きを放つ。今までに見たことのない福士の淀んだ視線、松本の剥き出しの心が「今、世界は美しいのだろうか」という問いの答えとなり、我々の心に突き刺さる。
このたび解禁となったのは、若手の濱中圭介(福士蒼汰)とベテランの伊佐美(浅野忠信)が、警察署の取調室で容疑者・松本郁子(財前直見)に取り調べを行うシーンだ。
密室で容疑者を追い詰める刑事、全力で否認する誇り高き介護士
琵琶湖近くの介護療養施設、もみじ園で100歳の老人が不審な死を遂げた。殺人事件とにらんだ西湖署の若手刑事、濱中圭介とベテランの伊佐美は、容疑者と見なしたもみじ園の介護士・松本への強引な追及を繰り返す。
介護士・松本郁子への疑いを強めていく伊佐美。真面目で犯行動機も見当たらない松本はシロだと感じる圭介だったが、気性の荒い伊佐美は「誰かが犯人なんや。なら松本でいいやんけ。お前、ほんまアホやな!」とまくし立て、圭介の頭をひっぱたく。先輩である伊佐美のパワハラじみた指示に盲従する圭介は、無言でうつむくばかりだ。
このたび解禁された本編映像は、刑事たちの歪な上下関係と、彼らが密室で容疑者を執拗に追い詰める異様な状況を映し出したものだ。
うなだれる松本に対して睨みを聞かせる伊佐美。しかし介護という仕事に誇りを持っている松本は、そんな圧力に簡単には屈しない。「あんたらはなんや! ほんまの犯人捕まえや! うちはやってないんや!」。
憔悴しながらも己の信念を貫き通す松本に、捜査が一向に進まないことに加え、警察内部からのプレッシャーを受ける伊佐美は、自身から湧き出るやり場のない怒りを後輩の濱中へ爆発させる。だが伊佐美にもまた、このような強行に及ぶに至った過去があった……。
そんな“修羅場”の背景には、大森監督が「天上的な曲」と表現した、バッハのヴァイオリン曲「シャコンヌ」の切り裂くような旋律が流れ、ひと筋の希望のありかも模索する。本作は、まさに“現代の黙示録”と呼ぶにふさわしい破格のミステリー映画に仕上がっている。
『湖の女たち』は全国公開中