ヨコシマな期待を打ち砕くキャスティングの妙
本作を観始めて最初に驚くのがキャスティングだろう。よくある官能ドラマならば、父親の恋人役には“分かりやすく”エロさを強調するところだろうだが、本作でアンドレアを演じるニナ・シュワーベは良くも悪くもややクセ強め。セレブ親父の後妻といえば若くてグラマーなギャルでしょ! という日本的な歪んだ先入観を打ち砕かれ、いきなりテンションが下がる人もいるかもしれない。
なお男どものキャラ描写だが、パパのフィリップは袴姿で庭に出て日本刀を振ったりする(居合道?)、いかにも文化意識の高い感じの渋メン。かたやマーティンは身体こそがっしりしているが、ベソをかきながら「パパ~!」とか叫んでしまうなどい、まだ母を亡くした傷が癒えていないようだ(※演じるテオ・トレブスはミヒャエル・ハネケ作品でも知られる若手実力派)。
濡れ場にオシャレは不要? 言葉を失うラスト15分の衝撃
そんなキャラ設定だけに、さらにアンドレアがワガママ放題なウザ妻だったら目も当てられないが、日中は障がい児施設でイキイキと働いていたり、一般的な家事以上のことを難なくこなしてしまう生活スキルを持っていたりと、その人となりを見ているうちに、とても魅力的に見えてくる。マーティンでなくても一緒に生活していたら惹かれてしまうだろうなぁ、と思わせてくるあたりが非常にリアルだし、一瞬でも「家政婦のほうがかわいいじゃん」なんて思った自分を殴りたくなること請け合いだ。
ところが官能ドラマの重要なファクターである“濡れ場”が過剰にアーティーで、シズル感はほぼゼロ。そんなところにまで匠の意匠はいらないよ! と思わずツッコみたくなるほど淡白で、住居セットの小綺麗さと相まって、うっかりすると「なんだIK◯Aの展示家具か」と素通りしてしまいかねない。
ラスト15分は画面に釘付けになる衝撃度で、アンドレアのキャラ造形の「?」にも察しがつく。ちなみにCS映画専門チャンネル ムービープラス「プライベート・シアター」での放送がテレビ初ということで、興味本位で観ておいても損はない作品だ。
https://www.youtube.com/watch?v=N4pn1JJqars