※以下、インタビューは映画の核心となる内容を含むため、未見の方はご注意ください。
<インタビュー全文>
Q:チェン・アル監督は、あなたのメイクや衣装を見たとき、原作や脚本のキャラクターが生きているように感じたと仰っていました。では、どの時点で自分がイエだと感じたのですか?
A:今回、このようなメイクやスタイリングに挑戦するのは初めてで、まるで別の時空に行くような感覚でした。スタイリングや衣装のおかげで一気にキャラクターに近づくことができたのではないかと。それから、共演者や監督とのコミュニケーションを通じて、役を感じることができたのだと思います。監督の脚本は、撮影の過程で少しずつ追加されていきますから、徐々にそのキャラクターをより深く知ることで没頭し、演技に磨きをかけていくのです。
Q:あなたが演じているイエはどんな人ですか?その役から見て、『無名』はどのような物語を描いているのでしょうか?
A:このキャラクターは、とても心が痛む役だと思います。『無名』は、私たちが今より良い生活を送れるように、国に多大な犠牲と貢献をした当時の名もなき、顔も知らない、多くの人々についての物語です。
Q:役を演じるとき、その心理状態をどのように体験していますか?
A:現場の環境によるところが大きかったです。 現場では、囚人が尋問されている場所があったり、たくさんの犬が吠え、地面が血まみれだったりと、とても憂鬱な気分になります。撮影期間中もリラックスしていなかったし、常にストレスや憂鬱な気分を抱えて、役柄と共感していたので、まったく安心できませんでした。
Q:この映画は、アクションシーンが多くありますが、演じる上での苦労は何ですか?
A:本作の格闘シーンは、私がこれまで出会ってきたものとは全く異なり、スタイルも全く違います。監督は、アクションシーンにもっとリアルさを求めました。悪く言えば、ヤクザのケンカのようなリアルさでした。雨の中で日本兵と闘うシーンがありますが、あれは何日も何回もかけて撮影した一発勝負の格闘シーンでした。
Q:監督はどのようにセリフのひとつひとつを調整し、演技指導しましたか?
A:最初は何もしないまま、俳優たちの好きなように演技させます。監督は、私にとても良い習慣を教えてくれました。それは、毎回モニターでリプレイを確認することです。演技の後、リプレイを観て、どこが良くて、どこが良くないかを教えてくれました。そうして、無駄な動きをしなくなり、安定感のある芝居ができるようになっていきました。私たちはどんどん調整していき、自然に役と一体化していきました。監督はとても優しく、分かりやすい明確な指示を出してくれました。監督は、他の役者にも自由に演じられるような余地を与えていましたが、私の演技経験は多くないため直々に指導してくれました。
Q:トニー・レオンさんとの格闘シーンは重要なシーンですが、どのように撮影されたのですが?
A:事前に同じようなシーンを準備し、実際の撮影に入る前に2、3日リハーサルをしました。 あのシーンは9日間かけて撮影したのですが、最初は力を入れるのが怖く、またレオンさんの相手役というプレッシャーもあって、本気を出して戦う勇気がなかったのですが、監督から「プレッシャーは捨てて、コントロールしないようにしたほうが臨場感が出るよ」と言われました。何度も何度も試しているうちに、だんだんスムーズになっていきました。2階から落ちるシーンは、スタントマンを使いたくなかったので、ワイヤーアクションで何度も撮影しました。レオンさんとの戦いのシーンでは、手を伸ばした瞬間に彼の顔に触れることができるぐらい近距離なので、本当に感動しました。
Q:最初のシーンについて質問です。ワン役のエリック・ワンさんと遺体を運ぶシーンの撮影はどうでしたか?
A:夜に行って夜明けまで待ちました。 あのシーンを撮った時はとても不安でした。台本を受け取ったのが2021年の夏で、台本を受け取ってから2、3日後に撮影が始まりましたが、その時は監督のやり方がどういうものなのか分かりませんでした。脚本はとても単純明快でしたが、想像の余地がたくさんありそうな気がしましたし、撮影中も常に脚本をカットしたり修正したりしていました。 監督から、撮影前の準備をどうすればいいか教えてもらい、クエンティン・タランティーノ監督の作品や『ゴッドファーザー』などたくさんの映画を送ってもらい、映画の観方や学び方を教えていただきました。
Q:映画の中で上海語を話すことが要求されましたが、方言はどのように練習したのですか?
A:台本を受け取ってから毎日、エリック・ワンさんが私のセリフを上海語で録音して送ってくれました。方言や日本語を覚えるのが早かったのは、それまで外国語の歌をたくさん習っていたので、その基礎があったのかもしれません。歌詞を暗記しているような感覚でした。
Q:映画の中では、蒸したスペアリブを食べたり、酔っ払い海老を食べたりと、食事シーンがたくさん出てきましたが、このようなシーンではどのような気持ちで演じましたか?
A:普通の食事で、あまり複雑に考えず、食事は食事、食事中のおしゃべりはおしゃべりだと分けていました。スペアリブを食べるシーンは、最初はあまり自然ではなく、作り物のような食べ方をしていたのですが、その後、ホウ・シャオシェン監督の 『フラワーズ・オブ・シャンハイ』の食事シーンを見せてもらい、日常的な感覚をつかむことができました 酔っ払い海老のシーンはとても印象的で、生きたエビがジャンプしてて、最初の一口を食べる勇気が本当にありませんでした。
Q:あなたが演じるイエと、チャン・ジンイーさんが演じるファンの間には、感情的な境界線がありますが、この感情をどのように表現しましたが?
A: 監督から、登場人物の背景をいろいろ聞きました。私が演じたイエとチャンさんが演じたファンは、昔同じような人生を歩んだんですが、色々あり、別々の道に進みました。イエがファンに会いにお手洗い行くシーンですが、彼女に「あなたは死ぬのよ」と言われます。イエはあの時、自分の好きな人に酷いことを言われたのですから、本当に心苦しかったはずです。その時のイエの感情をどのようにして出せるか考えました。現場に行って、その場で見たこと、そして聞いたことをしっかり受け取ることが一番重要だと思いました。現場では監督からも、イエとファンの関係性や、その時の二人の精神状態を丁寧に説明していただいたので、その場でイエとファンの間で何が起こったかをより理解することができました。また、監督から私たちに「日常生活の中に似たような感情を探してみて」とも言われました。
Q:『無名』の撮影で一番印象に残ることはなんですか?一番NGが多かったシーンはどれですか?
A:実は、チェン・アル監督にキャスティングされる少し前に映画俳優デビューしたばかりで、今回はとても大きな役だったので、今でも撮影現場のことをよく覚えています。その理由のひとつは、監督は夜の撮影に慣れており、夜の方が調子がいいと感じています。ほとんどの撮影は午後6時に始まり、翌朝6時に終了します。このような集中力の高くてかなりハードな仕事を経験することは本当に稀なことです。そして、実際に何度もNGになりましたが……。監督はとても真面目で几帳面な方なので、おそらく私が出演したシーンはかなりの回数を重ねて撮影したのだと思います。
Q:『無名』の撮影を振り返って、あなたはどんな経験をしましたか?
A:勉強になることが多かったです。撮影がないときは、撮影現場に行ってレオンさんの演技を見ましたが、レオンさんは顔や体の筋肉のコントロールが素晴らしくて、とても安定していました。また、撮影後にリプレイを見ることで、自分の良いところと良くないところを知り、自分の顔の特徴や動きを理解し、動かしていいところ、動かしてはいけないところ、安定すべきところを知るという良い習慣を身に着けることができました。そして映画を観ることで、どの部分の演技に注目すべきか、どのシーンを覚えておくかなど、俳優の演技を観る目も養われました。撮影現場もとてもいい雰囲気で、カメラマンと録音技師しかおらず、他のスタッフは全員現場の外にいて、俳優の演技を邪魔しないように小さな声で話しながら懸命に働いていました。
『無名』は5月3日(金・祝)よりヒューマントラストシネマ有楽町、シネマート新宿ほか全国順次公開