ポーランドの巨匠が命を懸けて放つ『人間の境界』
映画の舞台となるのは、ウクライナの隣国であるポーランド。もうひとつの隣国ベラルーシ経由でポーランドに渡ることで安全なうちにEUに亡命できると信じたシリア人家族たちだったが、ポーランドにたどり着いたと歓喜する彼らを待ち受けていたのは武装したポーランドの国境警備隊による強制排除だった。彼らは非人道的な扱いを受けたすえベラルーシに戻され、極寒の森に敷かれる鉄条網を隔てた両国から繰り返し難民たちを押し付け合うような暴力に満ちた迫害を受ける状況を強いられていく……。
2021年8月以降、ベラルーシがEUの混乱を狙い隣国ポーランド国境に大量の難民を移送した事態をうけ、『ソハの地下水道』など3度のオスカーノミネート歴を持つポーランドの巨匠監督アグニエシュカ・ホランドが、政府や社会への強い怒りを込めて描いた文字通り覚悟の告発といえる衝撃作だ。
物語は“緑の国境”と呼ばれる両国の国境地帯を中心に描かれるが、クランクイン直前にロシアがウクライナ侵攻を開始したことを受け、脚本に急遽エピローグを追加。侵攻開始直後のポーランドとウクライナとの国境での様子を描き出すシーンには誰もが言葉を失うだろう。2023年ヴェネチア映画祭審査員特別賞ほか18もの受賞を果たした。
2024年5月3日(金・祝)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国公開
アカデミー賞受賞の衝撃ドキュメンタリー『マリウポリの20日間』
2022年2月、ロシアがウクライナ東部の都市マリウポリへ侵攻開始。戦火に晒された人々の惨状をAP通信取材班が命がけで撮影を敢行し、決死の脱出劇のすえ世界へと発信された奇跡の映像記録で、本年度アカデミー賞において長編ドキュメンタリー賞を受賞した話題作が緊急公開される。
この市内で、戦火にさらされた人々の惨状を命がけで記録し続けたウクライナ人ジャーナリストたちがいた。ロシア・ウクライナ戦争を含む、国際紛争の取材を10年近く経験したAP通信記者ミスティスラフ・チェルノフと、その取材チームである。彼らはマリウポリ市内に残る唯一のジャーナリストとして、死にゆく子どもたちや山積する民間人の遺体、産科病棟への爆撃などを克明に記録し続けた。
初めての監督作でウクライナにとっての初めてとなるオスカーをもたらしたチェルノフによる、授賞式での「この映画が作られなければよかった」などの胸に迫るスピーチも話題となった。
2024年4月26日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開
数百万人が命を落とした人為的飢饉!『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』
『人間の境界』のアグニエシュカ・ホランド監督が2019年に製作した、実話に基づく歴史ドラマ。世界恐慌の嵐が吹き荒れる1933年、なぜスターリンが統治するソビエト連邦だけが繁栄しているのか疑問視した英国人記者ガレス・ジョーンズは、その謎を解くために単身モスクワを訪れる。外国人記者を監視する当局の目をかいくぐり、すべての答えが隠されているウクライナ行きの汽車に乗り込む。凍てつくウクライナの地を踏んだジョーンズが目の当たりにしたのは、想像を絶する悪夢のような光景だった……。
ソ連によって人為的に引き起こされた飢餓とも言われるウクライナの<ホロドモール>を衝撃的な手法で描き出す一方で、ソ連/ロシアとウクライナの長きに渡る複雑な関係性を現代の観客に伝える意義の高い作品だ。
親ロシア政権を崩壊に追い込んだ“革命”を追う『ウィンター・オン・ファイヤー:ウクライナ、自由への闘い』
ウクライナの首都キーフにある独立広場(マイダン)で2013年11月に始まった、国家のよりよき未来を願う300人ほどの平穏な学生デモは、やがて100万人規模の公民権運動へと変貌し、2014年2月についに当時の親ロシア政権を崩壊にまで追い込む。この<マイダン革命>を、ウクライナ市民の目線から93日間追い続けた壮絶なドキュメンタリー。
自由を求めて文字通り命がけの闘いに身を投じる市民たちの姿を通じて、ロシアによるウクライナ侵攻が行われるに至った経緯の一端のみならず、観る者に大きな気付きをもたらす作品。2016年 アカデミー賞長編ドキュメンタリー部門ノミネート。
分断と武力衝突をダークなユーモアで描く戦争ドラマ『ドンバス』
ドキュメンタリーに定評のあるウクライナのセルゲイ・ロズニツァ監督が、2018年に製作した戦争ドラマ。『ウィンター・オン・ファイヤー』が描き出したマイダン革命直後の2014年に一方的にウクライナからの独立を宣言し、親ロシア派勢力“分離派”によって実効支配されているウクライナ東部のドンバス地方。分離派の政治工作によりウクライナ系住民との分断が深まり内戦となっているこの地域で繰り広げられる武力衝突をダークユーモアを込めながら描く。
今日の戦争でロシア軍の所業を知った今、もはやまったく笑えない映画に変貌を遂げた。2018年、第71回カンヌ国際映画祭ある視点部門で監督賞を受賞。