「大事なのは愛し合おうとすること。人生は有限だからできるだけ愛すること」
映像は、アダム(アンドリュー・スコット)とハリー(ポール・メルカル)の二人が惹かれ合い、互いを受け入れていく様子を描いたシーン。
ロンドンのタワーマンションに暮らす40代の脚本家・アダムは、子供の頃に両親を交通事故で亡くしたトラウマから悲しみと孤独を纏っている。そんなアダムと出会い、恋に落ちていくハリーは、どこか儚げな空気が感じられる一方で、少年のような無邪気さも併せ持つミステリアスな男性だ。誰よりも繊細で優しいが故に傷つきやすく、他者とのつながりを求めながらもそれを恐れる二人は、互いの心の奥底にある孤独を見出し、恐る恐る、でも確かにつながりを深めていく。
アダム役を演じたアンドリュー・スコットが観る者を魅了する演技を披露するのはもちろん、本作では、ハリーを演じたポール・メスカルからも目が離せない。メスカルは、アイルランド出身の今大注目の俳優の一人。『aftersun アフターサン』で「第95回アカデミー賞」主演男優賞にノミネートされて以降、その人気は留まることを知らず、すでに明らかになっているものだけでも、リドリー・スコット監督の『Gladiator 2』(24)、クロエ・ジャオ監督の『Hamnet』(未定)、リチャード・リンクレイター監督の『Merrily We Roll Along』(未定)など、2024年以降で錚々たる作品に出演することが決まっている。
そんな彼が本作で魅せる繊細な演技にアンドリュー・ヘイ監督も魅了されたようで、「ポールは名優だ。絶妙なバランスで繊細さと強さを併せ持ち人を引き付けるんだ」と絶賛する。親密なシーンも多く、複雑な関係性を演じる必要のあったアンドリュー・スコットはメスカルとの共演を「ポールと僕の課題は経歴を多く語らず相性を示すことだった。愛を演じるというのがいい。美しいものだからね」と振り返り、約20歳も年の離れた若い才能の虜になったようだ。
そんなメスカルは、「彼らの孤独はお互いを映し合っていると思います」とアダムとハリーの関係性について明かし、自身が演じたハリーという役について、「もっと幸せになれるのに自分を隠して性に奔放な生活をしている」と分析し、「ドラッグやアルコールの問題を抱え、追い詰められている。僕自身や友人たち、そして世の中の若者たちの中に、彼の存在をわずかに感じることがあります」とも捉えており、自身にとってひとつの“役”以上の想いを持っていたことを明かしている。
「大事なのは愛し合おうとすること。人生は有限だからできるだけ愛することさ」。そう明かすスコットの言葉に続き、「愛する人々との絆を諦めずに求め続け、人生で孤立しないこと。信じる勇気も必要だ」と語るメスカル。豊かな色調と陰影に富んだ35mmフィルムに映し出される映像には、孤独のなかに差し込む一筋の希望の光かのように琥珀色の光がきらめいている。
“出かけよう、君と僕と2人で 外の世界に” その言葉が示す、2人の愛の行方は—?ヘイ監督の繊細かつ先鋭的な演出と相まって、観る者をリアルとファンタジーの狭間へと誘う夢幻的な映画体験を味わえる本作。ぜひ、スクリーンで体感して欲しい。
『異人たち』は4月19日(金)より公開