ド変態DV議員×ワケあり美人妻×熱血小悪党
ドンワンが演じるのは、スマートフォン修理業者だが顧客の個人情報を抜き取り、それをネタに脅して小金を稼いでいる小悪党のスンヒョン。そんな彼に、国会議員キム・テサンと結婚した元人気女優のミニョンが修理を依頼してくる。彼女の大ファンだったスンヒョンは密かにアガるが、いつものようにデータを抜き取ってみると、ミニョンがテサンからDVを受けているらしき写真が見つかり……。
スマホやPCの画像・映像をもとに持ち主を脅迫・暴行する事件は韓国で社会問題となっており、2021年には同国史上最大最悪の性搾取事件「n番部屋事件」の主犯の一人が逮捕された。本作は“権力者に立ち向かう男の奮闘を描くスリラー”と謳われているが、主人公は“きっかけ”がなければさらなるダークサイドに堕ちていた可能性もある男でもある。
警察や司法の描写がほとんど無くサスペンス~バイオレンスに終始するあたり、脚本段階でそこそこの妥協もあったのだろう。そもそも深掘りしようとするとキリがないテーマであり、膨大な予算や時間も必要になってくるので、クライマックスの大バイオレンス展開で強引に風呂敷を畳んでいくのは苦肉の策だったのかもしれない。ベッドシーンも多めだがそれぞれの温度差が凄まじく、明確な“狙い”が込められているのは好印象だ。
キャスト陣の熱演に冷や汗&爆笑
劇場公開時にはコアな韓国映画好きと、おそらくドンワン目当てで観たというファンが足を運んだと思われる本作。実際ドンワンありきの作品ではあるものの、彼のキャリアを知らなければ“元アイドル”とは思えないほど、見事な熱血ヘタレ主人公を文字通り全力ダッシュで好演している。
また、一応のヒロイン的キャラクターを演じたチョン・セヒョンの影のある美女ぶりはため息もので、ファム・ファタールとしての存在感を披露。そして悪人を演じさせたらピカイチのキム・ビョンオク(『オールド・ボーイ』『新しき世界』など)がベタベタに悪い政治家テサンを好演していて、ド変態すぎる野蛮人ぶりが逆に笑いを誘う。
本作の原題は『B CUT』で、つまり“隠したい裏の画像”という意味。しかし「私にとってはAカット」と言うミニョンの復讐譚とも言えるお話であり、全体的にザックリはしているが後味は決して悪くない。今後スマホやPCを修理に出す際に、ちょっと疑心暗鬼になりそうな映画でもある。
『覗き屋』はCS映画専門チャンネル ムービープラス「今月の韓国映画」で2024年3月放送