第96回アカデミー賞授賞式が3月11日(日本時間)に開催。今年の同賞には、ハピネットファントム・スタジオが国内配給する3作品がノミネートされた。
『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』で昨年のオスカーを席巻した米映画スタジオ<A24>と、『パラサイト 半地下の家族』を配給した韓国の<CJ ENM>が初の共同製作で贈る注目作、 『パスト ライブス/再会』(4月5日公開)が作品賞・脚本賞に、同じくA24が製作したジョナサン・グレイザー監督最新作 『関心領域』(5月24日公開)が作品賞・監督賞ほか5部門に、そして『キャロル』の名匠トッド・ヘインズ最新作『メイ・ディセンバー(原題)』は脚本賞にノミネートされている。
ということで、今年の春~夏に公開が控えるハピネットファントム・スタジオ配給のオスカー候補3作をご紹介。11日の授賞式の行方を見守りつつ、しっかり予習して日本公開に備えよう。
韓国⇔アメリカの“恋”の行方を追う『パスト ライブス/再会』
ノミネート;作品賞、脚本賞
まず『パスト ライブス/再会』は、ソウルで初恋に落ちた幼なじみの男女が24年後、36歳になりNYで再会する7日間を描くラブストーリー。物語のキーワードは「運命」の意味で使われる韓国の言葉「縁(イニョン)」。見知らぬ人とすれ違った時、袖が偶然触れるのは、前世(PAST LIVES)で何かの“縁”があったから――。
久しぶりに顔を合わせた二人は、NYの街を歩きながらこれまでの互いの人生について語り合い、過去の自分たちが“選ばなかった道”に想いを馳せる。「もしもあの時、あなたとの未来を選んでいたら――」。この再会の結末に、幾千にも重なった切ない涙が溢れだす。
メガホンを取るのは、本作で長編映画監督デビューを飾ったセリーヌ・ソン。5部門にノミネートされたゴールデングローブ賞では、外国語映画賞や作品賞(ドラマ部門)のほか主演のグレタ・リーを女優部門(ドラマ)に押し上げただけでなく、監督賞と脚本賞にもセリーヌ・ソンの名前が踊った。受賞の可否に関わらず、“破格の新人監督”に対する歓迎と熱狂ぶりが伝わってくる快挙だ。
本年度アカデミー賞でも『バービー』のグレタ・ガーウィグや『哀れなるものたち』のヨルゴス・ランティモス、『オッペンハイマー』のクリストファー・ノーラン、『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』のマーティン・スコセッシなど映画界を代表する名匠たちの名前が並ぶ中、彗星の如く現れたフレッシュな才能に凄まじい注目が寄せられている。
『パスト ライブス/再会』は2024年4月5日(金)より公開
タイトルの意味にも注目!『関心領域』
ノミネート:作品賞、監督賞、脚色賞、音響賞、国際長編映画賞
続いて『関心領域』は、イギリスの作家マーティン・エイミスの同名小説を原案に、『アンダー・ザ・スキン 種の捕食』(2013年)のジョナサン・グレイザー監督が10年もの歳月をかけて映画化した作品。こちらも製作は、近年の賞レースを席巻しているA24だ。
初お披露目となった第76回カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞して以来、トロント映画批評家協会賞、ロサンゼルス映画批評家協会賞、全米映画批評家協会賞など数々の映画賞に輝いている本作、第81回ゴールデングローブ賞では作品賞(ドラマ部門)ほか3部門にノミネートされ、第77回英国アカデミー賞では英国作品賞、外国語映画賞、音響賞を受賞している有力株だ。
原題でもある「The Zone of Interest=関心領域」とは、第二次世界大戦中、ナチス親衛隊がポーランド・オシフィエンチム郊外にあるアウシュビッツ強制収容所群を取り囲む40平方キロメートルの地域を表現するために使った言葉。劇中でも、アウシュビッツ強制収容所と壁一枚を隔てた屋敷に住む収容所の所長と、その家族の暮らしが描かれる。巨大な壁で違法に分離された国で行われている新たなホロコーストに人々が関心を向ける今、監督や製作陣が願う「選択的共感の終焉」という想いをしっかりと受け止めたい。
『関心領域』は2024年5月24日(金)より公開
"The Zone of Interest" film producer James Wilson urged an end to "selective empathy," drawing parallels between the Holocaust film and Israeli violence in Gaza during his acceptance speech at the BAFTAs, the British film awards. pic.twitter.com/QYQfdU8wRP
— AJ+ (@ajplus) February 20, 2024
実力派キャストのアンサンブルが光る『メイ・ディセンバー(原題)』
ノミネート:脚本賞
最後に、『メイ・ディセンバー(原題)』は、全米にかつてない衝撃を与えた<13歳の少年と36歳の女性>の実在のスキャンダルをベースに描かれたラブサスペンスで、米「IndieWire」「NY Times」、「The Hollywood Reporter」、英「The Guardian」など有力媒体で“2023年のベスト映画”に選出されている。また、本作で苦悩する少年の20年後を演じ、ナタリー・ポートマン、ジュリアン・ムーアと共演を果たした韓国系アメリカ人俳優チャールズ・メルトンが、数々の助演男優賞を獲得したことも話題になった。
本作はすでに、ニューヨーク映画批評家協会賞で助演男優賞・脚本賞、シカゴ映画批評家協会賞で助演男優賞・脚本賞・有望俳優賞、ワシントンDC映画批評家協会賞で助演男優賞、ゴッサム賞にて助演男優賞、フィラデルフィア映画批評家協会賞ではブレイクスルー俳優賞を受賞。先日のゴールデングローブ賞でも、映画部門の作品賞、主演女優賞、助演女優賞、助演男優賞にノミネートされ、受賞は逃したものの今年の本命作品として名を連ねた。
『メイ・ディセンバー(原題)』は2024年 夏公開
――日本時間3月11日(月)に米・ロサンゼルスにて行われる第96回アカデミー賞授賞式。ご存知のように錚々たる作品たちが名を連ねているが、ここで紹介した3作は春から夏にかけて日本公開となる。規模も予算もケタ違いの大作に、これらの気鋭作品がいかに拮抗できるか? 結果だけでは測れない映画の魅力を、ぜひ劇場で確かめよう。