「北朝鮮には水も明かりもありません」
北朝鮮を脱出し中国の山間部で路頭に迷っていたロ一家は、韓国で20年以上に渡り脱北者の支援活動を続けてきたキム・ソンウン牧師に助けを求め、彼らのサポートを受け中国を抜けてベトナムのラオス国境付近まで到達。支援者が用意した隠れ家で旅の疲れを癒していた。
この本編映像は、本作の撮影クルーによる一家へのインタビューの場面。見るもの全てが目新しい家族は、この場所のふんだんに水が出るシャワーに驚いたばかりで、一家の父親は「北朝鮮には水も明かりもありません」と語り始める。妻も加わり祖国で水を得るための苦労を語り、「そんなわけで、ここは本当に天国です」とリラックスした笑顔で答える。一方で、80年以上北朝鮮で生きてきた祖母は金正恩総書記の功績と裏腹に貧しい国の現実を嘆き、長女は植え付けられてきた強烈な恐怖を思い出し泣き出してしまう。
多くの作品などに登場する“脱北者”が韓国など亡命先にたどり着き新たな社会に順応し始めた後であるのに対し、本作では稀といえる北朝鮮から逃れて間もない人々に密着。同じ家族であっても様々に異なる証言を捉えたこの映像は、生々しく貴重なインタビューシーンとなっている。
「今まで信じ込まされていた嘘から脱却し、事実を受け入れていく様」
本作のマドレーヌ・ギャヴィン監督は、この家族の脱北に密着したことについて、「ほとんどの場合、私のような人間が脱北者に出会うころには、その脱北者は韓国、または他の国に到着し、ATMの使い方や民主主義の概念などを紹介する施設に滞在しています。そこで彼らは北朝鮮の外の世界に適応するプロセスを始めています。だから、国外脱出後すぐの亡命者に会うことは極めて稀なのです。私たちは撮影を通じてロ一家の皆さんが新しい社会への適応を試みる経過を、これまでにない方法で経験することができました」と振り返る。
さらに、この映像で強い印象を残す祖母との交流について、「私がおばあさんに会ったとき、彼女の葛藤をひしひしと感じました。彼女は、私たちとの体験と、彼女が過去80年以上にわたって北朝鮮で聞かされてきたこととの間で葛藤していたのです。彼女の年齢まで祖国を深く愛していた人が、今まで信じ込まされていた嘘から脱却し、事実を受け入れていく様を見るのは、とても力強く、感動的でもありました」と明かしている。
『ビヨンド・ユートピア 脱北』は2014年1月12日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国公開