「ロールシャッハテストのようなものとして作った」
観客とのQ&Aに入ると、『ミッドサマー』を20回以上鑑賞し「⼈⽣が変わりました」という熱烈なファンから質問が。「(物語が終わった)この後、ダニーはどうなっていくんでしょうか?」と聞かれた監督は、「(ダニーが訪れるホルガ村の死⽣観、ルールに則り)72歳までは幸せに⽣きられるんじゃないかと思います」とユーモアたっぷりに答え、会場は笑いと拍⼿に包まれた。
続いて⼿を挙げたのは、京都から駆けつけたという⼥性。監督との対⾯に感激のあまり涙を流しながら「⼤好きです︕」と思いを伝えると、「監督の⼀番のお気に⼊りのシーン」を尋ねた。これに監督は、まず「京都は⼤好きで、今回も4⽇間ほど滞在しました」と微笑みかけ、お気に⼊りのシーンについては「⼥性たちがダニーを囲んでわんわん泣いているシーンの、みなさんのお芝居が好きです。現場で監督としてあのシーンを⽬撃して、まるで魔法のような瞬間だったことを覚えています」と振り返った。
続いて「(⻑編第1作の)『ヘレディタリー/継承』は、ある意味で観客は、監督との“共犯関係”にあるような悪魔的な⽴ち位置に置かれていましたが、この『ミッドサマー』では、監督は観客をどういう⽴ち位置に置き、どういう視点で観てもらいたいと考えたのか?」という質問が。
監督は少し考えた後、「『ミッドサマー』では、観客のみなさんの視点はやはりダニーになるように設計しています。どんな作品であれ、どうしても監督の視点で撮るので、観客も監督の視点で観ることは避けられませんが、この作品に関して⾔うとダニーに共感するようにつくられています。とはいえ、そう⾔いつつも多少の客観性があり、どちらかと⾔うと“神の視点”的な主観性を帯びている作品であると⾔えます。ダニーはやはり、⼀番⾯⽩い登場⼈物であり、複雑な経緯を持っています。家族を失い、彼⽒はダメダメで、この彼⽒に頼れないので、代わりにすがる“何か”を求めて彷徨うわけですが、その“何か”を⼿に⼊れるけれど、『あれ? なんかちょっと違う……』というものを⼿に⼊れてしまうわけです」と解説。
さらに「この映画のエンディングをみなさんがどう受け取るか? 僕はロールシャッハテストのようなものとして作ったつもりです。これをハッピーエンドと受け⽌めるか? そうではないのか? という問いを投げかけています。カタルシスのあるラストシーンですが、みなさんの⾒⽅次第で受け⽌め⽅は分かれると思います。その線引きをなるべく曖昧に描いたつもりです」と意図を明かした。
「僕がひとりぼっちなら、みんなもそうでなきゃ」
また、これまでの監督作品において、必ずと⾔っていいほど“刺繍”が登場する点について、その意図や理由を尋ねられると、「僕⾃⾝もイマイチわからないんですが、登場⼈物たちに何がしかのアートピース(⼩物)を通して表現する機会を設けようといているのかもしれません。そういえば、新作『ボーはおそれている』もそうですし、春先から撮る予定の新作にも刺繍が登場します。おそらく、僕⾃⾝のバックグラウンドが影響しているんだと思います。僕の⺟はビジュアル・アーティストであり詩⼈でもあり、⽗はミュージシャンで、僕もスケッチするのが好きです。それもあって、登場⼈物たちは芸術⾏為を通じて⾃⼰表現をするようになっているのかもしれません」と自らの演出を分析した。
監督は過去の取材等で、⾃⾝の“失恋経験”がこの映画を作るきっかけになったことを明かしているが、実際この映画を恋⼈同⼠で鑑賞した後、別れるカップルが数多くいたとも⾔われている。こうした現象にかんして、「そうなることを予期していたんですか? ⾃分が失恋したから、他のカップルに対しても『別れちゃえ!』という思いがあったんですか?」という直球の質問を投げかけられると、監督は「Yes, Sure!(もちろん!) 僕がひとりぼっちなら、みんなもそうでなきゃ」と即答。会場は爆笑に包まれ、同時に⼤きな拍⼿が沸き起こった。
最後にアリ監督は改めて、劇場に⾜を運んだ熱烈なファンに向けて「公開から数年を経ても、こうして⼿厚いサポートをいただけることを嬉しく思っていますし、そんなみなさんとこうして⼀緒に過ごせたことは美しい体験となりました。⽇本は芸術やアーティストへのリスペクトを持った国であり、そこでみなさんに映画を観ていただけることは本当に幸せです。最新作の『ボーはおそれている』もぜひ劇場で観ていただければと思いますし、気に⼊っていただけると嬉しいです」と呼びかけ、Q&Aセッションは幕を閉じた。
『ボーはおそれている』は2024年2⽉16⽇(⾦)より全国公開
A24作品『X エックス』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2024年1月放送