“ひとりよがり”な演技は退屈か?
役者を志さす人々は、それぞれ「やってみたい役」があるのではないだろうか? 例えば、ジョディ・フォスターの『ネル』(1994年)。自分だけの言語を使い、社会から隔離された山奥で暮らす少女の物語だ。
フォスターの嬉々とした熱演ぶりはアカデミー主演女優賞にノミネートされるほどだった。しかし、フォスターの「私の芝居を見てくれ」と言わんばかりの不思議少女芝居に、多くの観客が拒否反応を起こしてしまったのだ。かくして『ネル』は、“芝居はすごいが退屈な映画”という評価が大半を占めることになった。
だが、フォスターの『ネル』のように“ひとりよがり”で終わらず、“演じ手”と“観客”どちらにとっても楽しい作品が生まれることがある。それが『Pearl パール』だ。
映画好きの心をわしづかみにした前作『X エックス』
70年代スラッシャーとサイコビディの融合と評された『X エックス』(2022年)の前日譚となる本作は、主人公パールを演じたミア・ゴスの独壇場である。
豆知識として“サイコビディ”について説明しておくと、ウザい女性や老人にまつわるホラー/スリラー作品のこと。海外では“Hagsploitation(ババアエクスプロイテーション)”と呼ばれ、今日ではとても問題のある呼称となっているジャンルだ。
とはいえ『X エックス』は、老けメイクを施したミア・ゴス演じる老婆パールが若者を殺戮する内容であり、ビディホラーを地で行っていた。さらに『悪魔のいけにえ』(1974年)に代表される往年のスラッシャーや、アンディ・ウォーホルの『ブルームービー』(1969年)といったポルノ映画からの引用は、常人では成しえない異様な雰囲気を醸し、往年のホラー映画やエクスプロイテーション映画好きの心をわしづかみにしたのである。
『Pearl パール』
1918年、テキサス。
スクリーンの中で踊る華やかなスターに憧れるパールは、敬虔で厳しい母親と病気の父親と人里離れた農場に暮らす。若くして結婚した夫は戦争へ出征中、父親の世話と家畜たちの餌やりという繰り返しの日々に鬱屈としながら、農場の家畜たちを相手にミュージカルショーの真似事を行うのが、パールの束の間の幸せだった。
ある日、父親の薬を買いに町へ出かけ、母に内緒で映画を見たパールは、そこで映写技師に出会ったことから、いっそう外の世界への憧れが募っていく。そんな中、町で、地方を巡回するショーのオーディションがあることを聞きつけたパールは、オーディションへの参加を強く望むが、母親に「お前は一生農場から出られない」といさめられる。
生まれてからずっと“籠の中”で育てられ、抑圧されてきたパールの狂気は暴発し、体を動かせない病気の父が見る前で、母親に火をつけるのだが……。
監督:タイ・ウェスト
脚本:タイ・ウェスト ミア・ゴス
出演:ミア・ゴス
デヴィッド・コレンスウェット タンディ・ライト
マシュー・サンダーランド エマ・ジェンキンス=プーロ
制作年: | 2023 |
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2023年7月7日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー