前日譚としての『Pearl パール』
さて『Pearl パール』は、『X エックス』の殺人老女パールの若き日の話。彼女が“あの農場”で狂気じみた生活を送るようになったのは何故か? が描かれる。『X エックス』をしっかりと観ていれば解るが、パールは不幸な人間として描かれており、けっして狂人ではない。パールの気が触れていることを知っているのは観客のみであり、メタ的な視点で見れば本当に可哀想な人間なのだ。
ストーリーは終わりが見えているので、とてもシンプル。舞台は1918年、場所は『X エックス』でも舞台となったテキサスのとある農場だ。
戦争に行ったきり連絡が途絶えている夫、厳しい母、車椅子生活で体が動かない父、金持ちの義母と義妹……。鬱屈とした生活に辟易しているパールは街の映写技師と出会うことで、農場生活から脱することを強く願うようになる。
そんな折、地方を巡回するショーのオーディションがあることを聞きつけたパールは、 オーディションへの参加を強く望むが、母親に「お前は一生、農場から出られない」 と諫められ……。
そして物語は『MaXXXine』へ
本作には悲壮感が漂う。そのくせ、スクリーンから香る雰囲気は明るい。何故か? あろうことか、監督のタイ・ウェストは映画狂ぶりを発揮し、パールの物語に『メリー・ポピンズ』(1964年)や『オズの魔法使』(1939年)を引用し、さらにファンタジック丸出しのゴリゴリなテクニカラー色彩で描いているのである。
本作は『X エックス』がパンデミックによって制作が止まっていた時期に、監督のタイ・ウェストとミア・ゴスが思いのままに書き上げた脚本が基だ。彼女が『X エックス』でパールと主人公マキシーンの2役を演じることになったのは、この前日譚を書き上げたことに端を発している。そして、これが続く3作目の『MaXXXine(原題)』に繋がっていく。
よって、本作および『MaXXXine』は、タイ・ウェストとミア・ゴスがやりたい放題やってのける映画なのだ。
『Pearl パール』
1918年、テキサス。
スクリーンの中で踊る華やかなスターに憧れるパールは、敬虔で厳しい母親と病気の父親と人里離れた農場に暮らす。若くして結婚した夫は戦争へ出征中、父親の世話と家畜たちの餌やりという繰り返しの日々に鬱屈としながら、農場の家畜たちを相手にミュージカルショーの真似事を行うのが、パールの束の間の幸せだった。
ある日、父親の薬を買いに町へ出かけ、母に内緒で映画を見たパールは、そこで映写技師に出会ったことから、いっそう外の世界への憧れが募っていく。そんな中、町で、地方を巡回するショーのオーディションがあることを聞きつけたパールは、オーディションへの参加を強く望むが、母親に「お前は一生農場から出られない」といさめられる。
生まれてからずっと“籠の中”で育てられ、抑圧されてきたパールの狂気は暴発し、体を動かせない病気の父が見る前で、母親に火をつけるのだが……。
監督:タイ・ウェスト
脚本:タイ・ウェスト ミア・ゴス
出演:ミア・ゴス
デヴィッド・コレンスウェット タンディ・ライト
マシュー・サンダーランド エマ・ジェンキンス=プーロ
制作年: | 2023 |
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2023年7月7日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー