「マンゴールド監督は“ヒーローになりたがらない主人公”に焦点を当てる」
その成功の要因のひとつに、ジェームズ・マンゴールド監督の「映画への愛と、映画に関する百科事典のような知識」があると分析するジェンノ。マンゴールドは、2023年に『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』を撮るなど、今や“ハリウッドの職人”というスタンスにいる。プロデューサーの目から、どんな才能があると感じているのか。
ジムは、いい意味で一貫性のある監督です。通常、すぐれた監督は異なるジャンルで、それぞれのテーマを追求しますが、彼がつねに焦点を当てたがるのが「ヒーローになりたがらない主人公」なんです。
『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』(2005年)のジョニー・キャッシュや、『3時10分、決断のとき』(2007年)の主人公2人など、自分の墓に向かって歩くようなキャラクターを愛しています。法律に反したとしても自らのモラルを持ち、時としてそのモラルは倫理的で正しかったりする。そんなキャラクターですね。
『フォードvsフェラーリ』でも2人の主人公には職人の気質が漂い、尊く価値のある取り組みにロマンチズムが溢れています。コンピュータもなく、大掛かりなテクノロジーとも無縁の時代に、車の製造や運転のテクニックには“職人技”が生きていました。そんな時代の控えめなヒーロー像の勇気や知性をリアリズムで描いたことが、彼の才能だと感じています。
「新たな才能を見出すことで、現場全体のレベルが引き上がる」
ではプロデューサーの立場から、ジェンノは『フォードvsフェラーリ』にどんな功績を残したのだろう。そこを問うと、彼女はこんなエピソードを話してくれた。
NYのロングアイランドに住む友人の家族に、若い黒人女性がいて、彼女は撮影監督になる夢を持っていました。経済的な余裕がなく、ロサンゼルスにも知り合いがいなかったのですが、あるとき私は彼女の撮ったものを観る機会があり、その才能にびっくりしたのです。これは絶対に仕事を任せるべきだと感じ、『フォードvsフェラーリ』の撮影監督であるフェドン・パパマイケルに彼女を推薦しました。フェドンは非常に頑固な性格で、最初は私の申し出に不機嫌になったものの、彼女にすっかり夢中になり、今では彼女ナシでは仕事ができないほどになりました。
これは実に些細なエピソードです。別に映画で世界を変えたわけではありません。それでも新たな才能を見出すことで、現場全体のレベルが引き上がるわけで、チャンスのない人に機会を与えることがプロデューサーの義務であり、仕事であると実感できたのは事実です。
Ford v Ferrari (2019). James Mangold
— 𝐅𝐈𝐋𝐌.𝐌𝐄 (@wwwfilmme) December 1, 2022
Cinematography: Phedon Papamichael
Camera Operator: P. Scott Sakamoto
Photo by: Merrick Morton pic.twitter.com/HreS5nOEGK
プロデューサーとして物語のどんな点に着目するのか。『フォードvsフェラーリ』を例に挙げると、ちょっと意外な見方もあるという答えがジェンノから返ってきた。
何よりも優先されるのが、キャラクターですね。思いがけないヒーロー、あるいはヒロイズムこそ、題材選びの大きなポイントとなります。
『フォードvsフェラーリ』は、二人の男性のラブストーリーだと受け止めました。もちろんプラトニックな関係ですが、このラブストーリーは車のボンネットの下を覗く以上に、私の興味をそそったのです。ジョークではありませんよ。こうした思わぬ感動が、映画にとって重要なのです。
取材・文:斉藤博昭
『フォードvsフェラーリ』はCS映画専門チャンネル ムービープラス「YKK AP ムービープラス・プレミア」「特集:最速カーアクション!」で2023年7月放送
https://www.youtube.com/watch?v=hyttvomleqE
『フォードvsフェラーリ』
米国最大の自動車メーカー、フォード・モーター社から「ル・マン24時間耐久レースの絶対王者フェラーリ社に勝てる車を造れ」という社命を受けたカー・デザイナーのキャロル・シェルビー。資金も時間も限られる中、彼は破天荒な英国人ドライバー、ケン・マイルズと共に不可能に挑んでいく。
監督:ジェームズ・マンゴールド
出演:マット・デイモン クリスチャン・ベール
ジョン・バーンサル
制作年: | 2019 |
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CS映画専門チャンネル ムービープラス「YKK AP ムービープラス・プレミア」で2023年7月放送