「私のキャリアでも最高の経験」
『フォードvsフェラーリ』の映画化の動きが始まった当時をジェンノに振り返ってもらうと、あのビッグネームが候補に挙がっていたことを教えてくれた。
当初、20世紀フォックスの下で本作のプロジェクトが始まったとき、監督はジョセフ・コシンスキー(『トップガン マーヴェリック』ほか)、主演はトム・クルーズという構想が浮上しました。その組み合わせが残念ながら頓挫した頃、私はジェームズ・マンゴールドと話す機会が何度かあり、彼に何がやりたいかと尋ねたら『フォードvsフェラーリ』だと答えたんです。
ジム(ジェームズ)は、クリスチャン・ベールのケガ(『マネー・ショート 華麗なる大逆転』の撮影前にトランポリンで遊んでいてヒザを負傷していた)によって新作が中止となっていました。そこで私たちは、イギリスに住む脚本家のジェズ&ジョン=ヘンリーのバターワーズ兄弟とともに話し合いを積み重ね、満足のいくドラフトを完成させました。
ジムも私もクリスチャン・ベールとは長年の知り合いで、マット・デイモンもちょうど私の夫(やはりプロデューサー)と仕事をしたばかりで、その2人に声をかけたところ、即答で出演を引き受けてくれたのは幸運でしたね。そして2018年に撮影がスタートしたのです。
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しかし、ここで大きな問題が持ち上がる。フォックスがウォルト・ディズニー・スタジオに買収されるという、ハリウッド全体の勢力地図を変える事態が起こったのだ。この買収は2019年3月に正式成立。『フォードvsフェラーリ』が完成に向けて進んでいた時期だった。
この買収で感じたのは「今後、このようなドラマを作る機会はなくなるかもしれない。誰が製作費を払うのだろう」という不安でした。ディズニーの今後の方針がわからなかったからで、こういった大規模な合併は人々を混乱させます。
『フォードvsフェラーリ』の現場でも「このまま撮影を続けていいのか?」という空気が流れましたが、私たちは予定どおり進める決意をしました。結果的に、最高のスタッフやキャストと仕事をすることができ、撮影の日々はもちろん、フェラーリとのミーティングのためのヨーロッパ出張など、私のキャリアでも最高の経験になったと感じています。
「祖父母が孫を連れて観に行きたくなる作品になった」
困難も経て完成した『フォードvsフェラーリ』は先述のとおり、アカデミー賞にも絡む傑作となる。こうした流れは、どの程度、予想していたのだろうか。
多くのプロデューサーは、その経験から“迷信”に囚われています。最悪の経験が傑作を生み出すことがある一方、最高の経験が駄作に至る……というものです。『フォードvsフェラーリ』では製作のプロセスを心から楽しみましたし、編集をチェックしながら自分たちの方向性が正しいと実感していました。ただ興行的には難しいという予感もあったのです。
この重厚で長いドラマを観たい人は限られているだろうと予想したところ、あれほど多くの共感を集めたことは、ちょっと私でも理解が追いつきませんでした。これは『ドリーム』や『グレイテスト・ショーマン』(2017年)での経験と似ていました。これら3作には、最終的に家族向けになったという共通点があります。つまり祖父母が孫を連れて観に行きたくなる作品になったのです。そして誰もが『フォードvsフェラーリ』のスポーツ映画としての側面に夢中になりました。
各世代でその夢中になるレベルも異なっていたり、とにかくプロデューサーとしても予期しなかった喜びが得られたので、これも私にとっての“迷信”と言えるでしょう(笑)。
『フォードvsフェラーリ』
米国最大の自動車メーカー、フォード・モーター社から「ル・マン24時間耐久レースの絶対王者フェラーリ社に勝てる車を造れ」という社命を受けたカー・デザイナーのキャロル・シェルビー。資金も時間も限られる中、彼は破天荒な英国人ドライバー、ケン・マイルズと共に不可能に挑んでいく。
監督:ジェームズ・マンゴールド
出演:マット・デイモン クリスチャン・ベール
ジョン・バーンサル
制作年: | 2019 |
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CS映画専門チャンネル ムービープラス「YKK AP ムービープラス・プレミア」で2023年7月放送