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「原作クラッシャー」出崎統の劇場版『スペースアドベンチャー コブラ』 ロマンを注入し“大人の”声優をキャスティング

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ライター:#多田遠志
「原作クラッシャー」出崎統の劇場版『スペースアドベンチャー コブラ』 ロマンを注入し“大人の”声優をキャスティング
スペースアドベンチャー コブラ[4Kリマスター版] ©BUICHI TERASAWA/ART TEKNIKA・TMS
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「原作クラッシャー」と呼ばれた出崎演出の妙

しかし、出崎作品と言えば“原作クラッシャー”とまで言われる、基になった原作を大胆に脚色、変更するという要素、手法ではあるまいか。

『ガンバの冒険』では13匹のネズミを7匹にスリム化、個々の能力をまとめ、より『七人の侍』(1954年)化してキャラを立て分かり易くした。『ブラック・ジャック』OVA版(1993~2000年)でもオリジナルエピソードが頻出、話によっては主役であるはずのブラック・ジャックは狂言回し的になり、彼が赴き治療をする南米の革命軍の女リーダーが主役、といった物も存在したりしている。

冒険だ海へ出よう!

『ガンバの冒険』©斎藤惇夫/岩波書店・TMS

顕著なのは原作が少女マンガの場合で、シリーズ後半からメインで監督を担当した『ベルサイユのばら』では原作よりも「革命」という要素が大爆発。少女向け宮廷コミックのアニメ化作品というよりは、革命ロマンの側面が増大した。

さらに『おにいさまへ…』では、原作単行本で1冊半程度の中編を、30話超えの大長編にブローアップ。女子校における憧れの先輩との上下関係やドロドロの人間関係、『ベルばら』のマリー・アントワネットを想起させる“宮様”など、他の出崎作品を想起させるキャラや名シーンが頻出し、「出崎大全集」と化した1本となった。その極みが、オリジナルでハーマン・メルヴィルの小説「白鯨」をSFに創案した『白鯨伝説』(1997~1998年)だろう。

第1話 ふきだまり

『白鯨伝説』©手塚プロダクション

時に、この大胆な改変は原作者の不評を買ったりもしたが、原作よりアニメで有名になった作品も多い。これは出崎の力によるところが大きいのは間違いないだろう。“原作クラッシャー”などと呼びつつ、今度は出崎がいったいどんなオリジナル世界を展開させるのか、と楽しみにしていた側面もある。

原作者チェックが入った『コブラ』でも出崎は、どちらかというとオフビートさもある原作に彼らしい演出、いわゆる「出崎要素」を盛り込んでいる。原作の「刺青の女」編と「黄金の扉」編の2本の物語を合体させたり、本来は敵であるギルド側の武装組織・ホワイトゴリラを<ルルージュ星解放戦線>という女性戦闘集団に変更、味方として登場させるなどの設定変更がされている。

原作や後のTVアニメで、左腕の義手を外すと現れるサイコガンを左腕が変形する仕様に変更したのは、アクションのスムーズさを重んじたのだろうか。

スペースアドベンチャー コブラ[4Kリマスター版] ©BUICHI TERASAWA/ART TEKNIKA・TMS

松崎しげる、風吹ジュン、久米明ら“大人の”声優キャスティング

様々な設定の変更、キャラ造形など、それらは要するに出崎の好む「ロマン」を注入するがため、だったのだろう。主人公コブラのひょうひょうとした生き方はもちろん、使命のためには命もかけるヒロインたちの姿勢など、キャラ造形にも出崎印を見ることができる。

何より、“コブラ”として皆が知るお馴染みのジャン・ポール・ベルモンド的な2.5枚目な姿、あれは実は身を隠すために整形した姿、という設定なのだが、作中に登場するかつてのハンサムなコブラの姿は、腕がサイコガンで長髪の偉丈夫という、出崎アニメに多く描かれてきた『宝島』のシルバー、『ベルばら』の後期フェルゼン登場シーン、『白鯨伝説』のエイハブのような、出崎の思い浮かべる“イカす男”の姿まんまである。これは是非チェックして欲しいところだ。

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また『コブラ』本編にも、後の出崎的な表現が続出している。複数回(ほぼ3回)同じ動きを輪唱のように連続して描く出崎パターンも登場するし、当時としては女性のヌードもアニメでしっかり表現しているのもかなり先駆的である。さすがにそのまま描くのは問題があったのか、☆マークを巧みに用いるという、かつて新聞朝刊に載った週刊誌のグラビア広告同様の処理をされているシーンもあったりと、時代性も感じられる。

起用された声優陣も映画的だ。コブラの声を演じるのは主題歌「DAYDREAM ROMANCE」を歌い上げている松崎しげる。元々は山田康夫がキャスティングされていたが、「それでは『ルパン三世』と被ってしまうから」と没になった逸話がある。宇宙の命運を握るミロス星最後の女王、フラワー3姉妹のジェーンとドミニクはそれぞれ『地上最強の美女たち!/チャーリーズ・エンジェル』(1976~1978年)のファラ・フォーセットの吹き替えを担当した中村晃子、『蘇える金狼』(1979年)で松田優作を相手にヒロインを演じた風吹ジュンが担当し、大人の女性を感じさせる配役だ。

他にも、宿敵クリスタルボーイは任侠物や時代劇悪役で有名な睦五郎、ハンフリー・ボガートの吹替から「水曜スペシャル 川口浩探検隊」や「鶴瓶の家族に乾杯」など数多くのナレーションもつとめた久米明も出演しているなど、完全に映画的な“大人の”キャスティングである。

次ページ:ハリウッド特撮映画の波にアニメ映画で挑む
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『スペースアドベンチャー コブラ[4Kリマスター版]』

700万ビートルの賞金首である宇宙海賊コブラは、美しき賞金稼ぎのジェーンと出会い惹かれ合う。そんな2人を追う悪の組織ギルド。ジェーンは宇宙を彷徨うミロス星の女王の末裔で、星を蘇らせるため、生き別れた3つ子の姉妹キャサリンとドミニクを探してほしいとコブラに協力を依頼する。

監督:出崎統
声の出演:松崎しげる 榊原良子 中村晃子 藤田淑子 風吹ジュン

制作年: 1982