必要なのは、観る者の心を惹きつける人間力
ここまで書いてきたが、姐御が執拗に命を狙われる詳細な理由は不明だ(人身売買を通報したことで何かあったのだと思うが、娘まで命を狙われる理由はわからない)。
ストーリーのロジックなんて言葉は知らん、とばかりに姐御の心意気でもってゴリ押し展開。映画としてはおかしいのかもしれない。しかし、姐御の“人間力”が全てを超越する。
本作には、かつて80~90年代にスタローンやシュワルツェネッガーたちが築いたアクション映画のグルーヴがある。丁寧な伏線回収なんていらない。もはや脚本すらいらない。必要なのは、観る者の心を惹きつける人間力だ。
本作のジェニファー・ロペスは、とにかくカッコいい。アクションだけでなく、彼女が放つ熱い言葉にも異常なほど説得力がある。
この記事を書くにあたって、同じくNetflixで配信されている彼女のドキュメンタリー『ジェニファー・ロペス:ハーフタイム』(2022年)も観たが、やはり現実の彼女も『ザ・マザー』の姐御そのものだった。
「歳なんてただの数字」そこにいるだけで人を惹きつけるJ.Lo
90年代後半から00年代にかけて、その実績よりも奔放な恋愛やわがままな言動ばかりがゴシップのネタにされていた時期もあったが、『ハスラーズ』のローリーン・スカファリア監督の「(彼女は)とてつもない努力を平気でするから見過ごされる」という言葉が全てなのだろう。
今の時代なら大炎上する話だが、尻の大きさばかりネタにされていた時期もあり、その様子はセクハラを超えていた。姐御は語る。
「私はどれだけ侮辱されても負けない、批判されても立ち続けるJ.Lo」
スタローンやシュワルツェネッガー同様、姐御はそこにいるだけで人を惹きつける。ゴールデングローブ賞を逃した時も落ち込むスタッフを気遣い、翌朝には黙々と筋トレに励んでいた。姐御は現在53歳。“歳なんてただの数字だ”と言わんばかりに挑戦し続ける。
『ザ・マザー』の劇中で睨み合った狼が姐御と最終的に心を通わせたのも、演出ではなく真実なのだろう。
――最後に、劇中で描かれる娘への手紙の一文を紹介したい。
ゾーイへ
母親としてあなたを命がけで守る。
過ちだらけの人生であなたを生んだことが誇り。
鏡に映るあなたは強さの証
愛してる。ママより
「鏡に映るあなたは強さの証」……なんてカッコいい言葉なんだ。ジェニファー・ロペス、あなたについて行きます。
文:デッドプー太郎
Netflix『ザ・マザー:母という名の暗殺者』独占配信中
『ザ・マザー:母という名の暗殺者』
軍隊仕込みで凄腕の殺し屋は、生まれたばかりの娘を愛するがゆえに手放し、自身も姿を消した。だが、報復の魔の手が娘に伸びたとき、彼女は冷酷非情な犯罪者たちに立ち向かう。
監督:ニキ・カーロ
脚本:アンドレア・バーロフ ピーター・クレイグ ミシャ・グリーン
出演:ジェニファー・ロペス
ジョセフ・ファインズ ガエル・ガルシア・ベルナル
ルーシー・パエス オマリ・ハードウィック
ポール・レイシー ジェシー・ガルシア
イヴォンヌ・セナト・ジョーンズ イーディ・ファルコ
制作年: | 2023 |
---|