勝手に作られ弄ばれた「フランケンシュタイン」のような存在
また『ミーガン』は、あえてミスリードを促すような宣伝を行っている。整っているけれど不気味な容姿、そしてあの奇妙なダンスが目を引く予告編は、“従来の人形ホラー”を思い起こさせる。しかし、タイトルに反して『M3GAN/ミーガン』の主役は、“M3GAN”の周囲の人々だ。あくまで“M3GAN”は狂言回しの立場にある。
彼女は最終的に無邪気な殺人マシーンと化してしまうが、それは技術力を過信したジェマ、利益を最優先した会社、そしてそれらに甘えたケイディがもたらした結果なのだ。つまるところ“M3GAN”は、勝手に作られ、いいように扱われてしまった「フランケンシュタイン」のようなものだ。
しかし、説教くさい社会派ホラーと思うなかれ。秀逸な表現で恐怖と笑いを行き来することで、小難しい雰囲気にならないよう配慮もしている。件のダンスがいい例だ。ほかにも「え?」と思わせるシーンがいくつもあり、非常に楽しめる作品に仕上がっている。残酷描写を抑えてPG-12指定にしていることもあり、ちょうどいい案配のホラーに仕上がっているのだ。
新鋭ジェラルド・ジョンストンの次回作は『M3GAN 2.0』
ちなみに米国版ソフトにはアンレイテッド版が収録されており、Fワード台詞と残酷描写が追加された、ホラーマニアも納得の内容となっている。
『マリグナント 狂暴な悪夢』(2021年)でタッグを組んだジェームズ・ワンとアケラ・クーパーの生真面目な脚本を遊び心を生かして演出したのは、日本ではまだ無名のジェラルド・ジョンストンだ。出世作『ハウスバウンド』(2014年)は、自宅軟禁処分で幽霊屋敷に滞在することになったヤンキー女のホラーコメディ。『M3GAN/ミーガン』同様、幽霊は狂言回しで、メインに描かれるのは一家のドタバタ劇となっており、非常に楽しい作品だ(『ハウスバウンド』は2023年7月〜8月に行われる<カリテ・ファンタスティック!シネマコレクション2023>で上映予定)。
ジェラルド・ジョンストンはバランス感覚に長けた監督。次作は『M3GAN 2.0(原題)』とのことで、今から楽しみだ。
文:氏家譲寿(ナマニク)
『M3GAN/ミーガン』は2023年6月9日(金)より全国ロードショー
『M3GAN/ミーガン』
交通事故で両親を亡くし、悲しみからふさぎこんでしまった9歳の少女ケイディ。おもちゃメーカーの才気あふれる研究者ジェマは、この姪を引き取ることになるが、仕事ひと筋の独身者にとって育児はハードルが高い。
そこで彼女は研究段階のAI搭載の人形M3GAN(ミーガン)を、実験を兼ねてケイディにあたえる。ケイディは“彼女”との交流によって笑顔を取り戻していった。
ケイディが親しめば親しむほど、彼女によかれと思えることを次々と実行していくミーガン。しかし彼女の中に芽生えたケイディへの愛情は、やがて狂気へと変わり、とてつもない惨劇を引き起こす……。
監督:ジェラルド・ジョンストン
脚本:アケラ・クーパー
原作:ジェームズ・ワン
出演:アリソン・ウィリアムズ
ヴァイオレット・マッグロウ
ロニー・チェン
制作年: | 2023 |
---|
2023年6月9日(金)より全国ロードショー