『ツインズ』の怜悧な堀勝之祐×シュワルツェネッガー
シュワルツェネッガーの吹替に話を戻そう。たとえば1984年の『ターミネーター』第一作に関して言えば、最初に殺人マシーン役を務めた大友龍三郎は玄田ターミネーターとはまた異なる、非常に硬質かつ無機質な恐ろしさを醸し出していた。『ゴリラ』(1986年)などでたびたび登板している屋良版シュワルツェネッガーにも、玄田版とはまた異なるラフで大人っぽい魅力がある。
『ツインズ』(1988年)では堀勝之祐がシュワルツェネッガー役を演じていた。堀といえば野沢那智と並び、アラン・ドロンの吹替で知られた実力派だ。その声には色気がありつつ、また同時に近寄りがたい冷たさもあった。
そんな堀の演じた役柄で個人的に最も強く記憶に残っているのは、テレビアニメ『あしたのジョー2』(1980年~)に出てきたジャーナリストの須賀清。このアニメオリジナルのキャラクターは常にトレンチコートを着て煙草を吹かし、世の中を斜めから見ていた。しかし同時に主人公たる矢吹丈に必要以上に感情移入して、しばしば冷静さを失うという、複雑なキャラクターに堀勝之祐の声が説得力を与えてもいた。
自身初のコメディ作品であった『ツインズ』でシュワルツェネッガーが演じた、無垢なインテリという役柄。常人とは思えない身体とのギャップが笑いを生むが、堀の怜悧な声がまたキャラクターに新たな魅力を与えている。
シュワルツェネッガー/玄田哲章というコンビネーションは、くどいようだがもはや世界の常識だ。が、それ以外にもかつてさまざまな可能性があった……ということに、ぜひ思いを馳せていただきたい。そんなことを考えながら、またシュワルツェネッガー吹替の深すぎる世界の探求に戻らせていただく。
文:てらさわホーク
『プレデター』『ツインズ』日本語吹替版はCS映画専門チャンネル ムービープラス「今月の日本語吹替映画」で2023年6月放送