枯れた移民のおっさん、実はスゴ腕の元特殊部隊でした!
まず最初に言っておくと、この『ザ・フォーリナー/復讐者』のジャッキーはみなさんがよく知っているジャッキーではない。『新宿インシデント』(2009年)の密入国ジャッキーの雰囲気が一番近いかもしれないが、本作でのジャッキーの顔面の死にっぷりは、例えば電車とかで隣り合わせたら間違いなく引いてしまうレベル。同じ年に『カンフー・ヨガ』でハッスルしていた男と同一人物とは思えない、哀しみと狂気を爆発させる中年男性に扮しているのだ。
ジャッキー演じる主人公クァンは平凡なレストラン経営者で高校生の一人娘を溺愛していたが、あるとき爆弾テロで娘の命を奪われる。突然の出来事に茫然自失のクァンは、悲しみに暮れる間もなく犯人探しに奔走。やがて北アイルランド副首相のリーアム(ピアース・ブロスナン)がテロリストとつながっていることを突き止めると、過去に培ったヤバいスキルを駆使して犯人たちを追い詰めていく……。
今度のジャッキーは拠りどころのない移民、敵は“政治”だ!
「ジャッキー映画は一応全部観ることにしてる」という一定のジャッキーファンを有する日本。2年越しとはいえ本作が公開されたことは率直に喜ばしいし、地味そうだからとスルーせずにぜひ劇場で鑑賞してほしい。かつ本作をより理解するために予習しておいたほうがいい情報として、IRAの存在、つまりアイルランド独立運動について少し知っておくとベターだろう。
日本公開版ではUDIと字幕が出るが、これはIRA=アイルランド独立運動の武闘派組織のことで、その活動は19世紀にまで遡る。現在我々の知るアイルランドは、1900年代初頭に勃発した独立戦争を経て誕生した共和国。そのときイギリス領として残ったのが北アイルランドで、さらに同領内では独立派と残留派による北アイルランド紛争が繰り広げられた。そう、本作でブロスナンが演じる北アイルランド副首相は独立派の過激派組織の元メンバーで、そのことを知ったクァンの標的になるというわけだ。
犯人のこと知ってるでしょ? → 知らない帰れ → 事務所爆破……という淡々とした流れは実に恐ろしいが、リーアムに揺さぶりをかけるクァンの手際の良さには大いにシビレてしまう。それもそのはず、実はクァンはかつてベトナムで戦った元特殊部隊員。そのスキルを総動員して武装したUDIの連中を次々と葬り、リーアム=爆破事件の真相にじりじりと近づいていくのだった。
もちろんジャッキー節が炸裂するド派手なアクションも!
当然ながら、ビンをやイスを奪い合うようなコミカルなジャッキー風味は完全封印しているが、爆破工作をはじめ林の中にトラップを仕掛けたサバイバル戦や狭い室内での白兵戦、さらにビルから飛び降りる大胆アクションを披露。あまりの手強さに「あいつ何者なん……」と過去を調べたリーアムが特殊部隊時代の資料を見つけるシーンでは「それ見たことか! ジャッキーなめんなよ!!」と謎にドヤりたくなってしまう。
ベトナム戦争で多くのアメリカ兵の命を奪った爆弾をUDIがテロに使用し、結果的に娘を殺害されてしまったクァン。その皮肉を嘆くシーンは印象的だが、彼の捨て身の行動が要人の真っ黒なキャリアを暴き出し、内部粛清の引き金となるのだった。
ジャッキーらしさを封印しつつも緊張感をキープし、すさまじい虚無感に襲われるラストまでいっさいダレることなく突っ走る『ザ・フォーリナー/復讐者』。エンドクレジットにNG集がないのは少し寂しいけど、新境地を切り開いたネクスト・ジャッキーには、さらなる活躍が期待できそうだ。
『ザ・フォーリナー/復讐者』は2019年5月3日(金)より公開中
『ザ・フォーリナー/復讐者』
優しい人が、最恐。
娘を亡くした失意の中、復讐を誓った男により、様々な陰謀が暴かれてゆく!
制作年: | 2017 |
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監督: | |
出演: |