アサイラム、相変わらずノリノリである
皆さんは『ジュラシック・ユニバース ダーク・キングダム』(2018年)という作品を覚えておいでだろうか。その時々の話題作に便乗したパチモン映画制作を得意とする映画制作スタジオ<アサイラム社>が、かの大作恐竜映画『ジュラシック・ワールド』シリーズの公開に合わせてリリースした、いわゆるモックバスター作品である(ちなみに原題は『TRIASSIC WORLD』)。
この手のパチモン映画は、パクリ元の旬が過ぎ、月日が経つとそのまま忘れ去られてしまうのが世の常である。だが、そこは一筋縄ではいかないアサイラム社、本来ならば箸にも棒にもかからぬパチモン映画に過ぎなかった『ジュラシック・ユニバース ダーク・キングダム』の、誰も予想していなかった続編を新たに作り上げてしまった。
その名は『ジュラシックS.W.A.T. 対恐竜特殊部隊』。原題も『TRIASSIC HUNT』と、相変わらずノリノリである。
というわけで今回は、遺伝子操作で現代に蘇ってしまったまさかのアサイラム製恐竜モンスター・パニック映画、『ジュラシックS.W.A.T. 対恐竜特殊部隊』を紹介していこう。
なお本作、前作の映像を回想という形で流用しまくることで、かなりガッツリ尺を稼いでいる。この謎の続編が生まれた理由には、そういったやりくりの事情もあるのかもしれない。
蘇ったアロサウルス VS 噛ませ犬の特殊部隊
大企業<三畳(トライアシック)社>が、極秘に開発していた“新商品”、それは遺伝子操作で復活した2頭の古代恐竜アロサウルスだった。だが輸送中にアロサウルスは脱走、工業団地の中に解き放たれてしまう。そのわずか5キロメートル先は一般人の生活する住宅地。警備を任されていた兵士は、ただちに5人の精鋭を招集。大勢の犠牲が出る前に、なんとしてもアロサウルスを確保すべく、完全装備での捕獲作戦を実行する。
ところが兵士たちの動きは、三畳社とその顧客である世界各国にライブ中継されていた。実は彼らは、最強の兵器として生み出されたアロサウルスの性能をテストするための実験台であり、最初から使い捨ての消耗品として見なされていたのだ。
さらに三畳社のトップは古代恐竜のオークションを開催。無敵のアロサウルスを高値で売りさばかんとするばかりか、万が一にも兵士たちが勝ってしまった場合には、工業団地をドローン爆撃する手はずまで抜かりなく整えていた。そうとは知らぬ兵士たちは、アロサウルスに決死の戦いを挑むが……。
監督は『オープン・ウォーター』シリーズの三作目として、その筋では知られるサメ映画『ケージ・ダイブ』(2017年)が代表作のジェラルド・ラシオナート。そして悪役である三畳社のトップを、『ストリート・オブ・ファイヤー』(1984年)などのマイケル・パレが務めている。
いつも通りの長所と短所を併せ持つアサイラム作品
さて、ここ数年のアサイラム作品に共通している点だが、やはり3DCGのグレードは上がっている。特に登場する2頭のアロサウルスのディテールは細かく、この手の低予算早撮りパニック映画にしては、なかなかのもの。それでも、おざなりなセットと単調なカメラワーク、あまりこだわりの感じられないパニック演出のせいで、どうしてもチャチく見えてしまうところがなくもないが、許容範囲には収まっていると言っていいだろう。
脚本面は、ほぼほぼ導入部で力尽きている。開幕からスピーディーにアロサウルスを暴れさせ、舞台を工場団地に移すところまでは非常に良いものの、その後が続かず、内輪揉めと口頭での設定解説でダラダラと間延びしがち。アロサウルスの習性・能力・弱点などなどのSF設定自体は、それ相応に練り込まれているようには思うのだが。ほか、マイケル・パレ演じるコッテコテの悪役がせめてもの癒しか。
おおむねいつも通りの長所と短所を併せ持つアサイラム作品には違いない本作。『ジュラシック・ユニバース ダーク・キングダム』ファンの方は鑑賞しておくべきだろう。
文:知的風ハット
『ジュラシックS.W.A.T. 対恐竜特殊部隊』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2023年5月放送
『ジュラシックS.W.A.T. 対恐竜特殊部隊』
太古の恐竜を秘密裏に生物兵器として蘇らせた巨大バイオ企業から、2頭のアロサウルスが脱走。恐竜を生け捕りにするため、精鋭5人の対恐竜特殊部隊が出動する。戦闘の模様は、世界各地のディーラーに中継されていた。これは恐竜の兵器としての“性能”を証明するための実戦テストだったのだ。
監督:ジェラルド・ラシオナート
出演:マイケル・パレ
リネア・クイグリー ラミロ・リール
制作年: | 2021 |
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CS映画専門チャンネル ムービープラスで2023年5月放送