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『長いお別れ』は新しい時代の認知症映画 「作り手も“自分の家族に見せたい”と思える映画を」

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ライター:#BANGER!!! 編集部
『長いお別れ』は新しい時代の認知症映画 「作り手も“自分の家族に見せたい”と思える映画を」
『長いお別れ』©2019「長いお別れ」製作委員会 ©中島京子/文藝春秋
もし大切な家族の思い出が、少しずつ消えてしまったら……?『湯を沸かすほどの熱い愛』で日本全国から大量の涙を搾り取った中野量太監督の最新作『長いお別れ』が2019年5月31日(金)より公開! 様々な“家族のカタチ”を描いてきた中野監督の映画観、そして新しい時代の“認知症映画”の製作秘話を聞いた。

いつも“本当の家族”に見えるように撮っている

『長いお別れ』©2019「長いお別れ」製作委員会 ©中島京子/文藝春秋

―『長いお別れ』はどんな映画ですか?

中野:認知症をテーマに扱った、お父さん、お母さん、娘2人の東家という4人家族の映画です。もともとお父さんは中学校の校長先生をしていたんですが、70歳の誕生日にお母さんが娘たちを呼び出して「お父さんが認知症になった」と告白する。それからお父さんが亡くなるまでの、7年間の家族の話になります。ただ、お父さんが認知症になって亡くなるだけではないというか、お父さんにも、娘たちにも、奥さんにもそれぞれの7年間がある。それぞれ、みんなの7年間を描いているつもりなので……そんな映画です(笑)。

『長いお別れ』©2019「長いお別れ」製作委員会 ©中島京子/文藝春秋

―映画化の企画はいつ頃スタートしたんでしょうか。

中野:3年ぐらい前にプロデューサーから連絡があって、「こういう原作がありますけれども、中野監督どうですか?」というお話をいただいて。僕はオリジナルばかりやっていたので原作ものにはあまり興味がなかったんですが、一度読んでみようかなと思って原作を読ませていただいたら、たまらなくフィーリングが合ったというか。読んでいる途中から「僕だったらこう映像化するな」みたいに考えて読めた本って、今までなかなかなかったんです。だから読み終わった頃には、これは僕なら面白くできるぞみたいな感覚になってしまって「じゃあやりましょう」と。

―原作をお読みになった最初のご感想は?

中野:認知症がテーマなので、暗い、つらい本なのかな? って思ってたんですけど、もちろん苦しい場面もあるんですが、その中でもすごく人間が愛おしくて、ときにはクスクスと笑ってしまうシーンがあったりとか、そこが僕にはフィーリングが合って。もともと今まで僕もそういう映画を撮っていたんです。家族の映画で、厳しい状況の中で人間が懸命に生きて、その懸命さがちょっと滑稽に見えたりとか。そういうものを得意としていたので、読んだ途端に「わっ、これは!」という感じでしたね。

『長いお別れ』©2019「長いお別れ」製作委員会 ©中島京子/文藝春秋

―映画全体のバックボーンについて意識されたところは?

中野:原作者の中島(京子)先生とお話する機会があって、「自由にやってください」と。でも一つだけ「原作が持っているおかしみ、ユーモアっていうのだけは忘れないでね」って。僕は「わかりました。それは得意とするところなので」と、まずそこは絶対にはずさないようにしました。人間が懸命に生きることがちょっとユーモラスに見えたり、一生懸命だからこそ……っていうところは絶対に撮ろうと。あと、いつも心がけているのは家族の映画ならば絶対“家族に見える”ようにしたいんです。見せるのは簡単なんですよ、「僕たち家族ですよ」って。でも、それが本当にそう見えるようにっていうのは、ずっと大切にしていて。そこにこだわってやりました。

山﨑努さんは認知症の父親役を完璧に演じてくれた

『長いお別れ』©2019「長いお別れ」製作委員会 ©中島京子/文藝春秋

―監督ご自身にとって“家族と向き合う時間”というのは、どんな意味を持っていますか?

中野:家族って“帰る場所”というか、そういうものがあるからこそ安心して生きていられるというか。ダメになったときだって、そこに帰れば助けてもらえたり、なにかがある。そういうものが“家”であり、“家族”であると僕は思うんですね。今回の映画だと、お父さんが認知症になってしまって大変なんだけれども、やっぱり帰る場所はあって、認知症のお父さんに助けられるんですよね、みんなが。そこをちゃんと描きたかったんです。記憶を失っても、失っていないものがあるんだよっていうことを、ちゃんと描きたかった。認知症になってしまったお父さんと触れ合うことで、みんな昔と変わらずに、お父さんから何かを得て、助けられる。それを描くことで、ちゃんと伝わるんじゃないかなという思いがあって。だから家族っていうのは、そういうものなんだなって、僕は思っています。

―本作は山﨑努さんが教師であり厳格な父親役を演じていて、認知症が悪化してしまう様を7年間という時間とともに見事に演じられていました。今回、山﨑さんの演技についてはどのように感じていますか?

中野:いやあ……すごかったですよ。というか“順撮り”じゃないんですよ。認知症の進み具合を4つの段階に分けて撮ってるんですけど、初日からいきなり“3段階目”をやらなきゃいけなかったりとか、それって本当に難しいと思うんですよね。でも山﨑さんは「大丈夫だよ」って言ったんです。「自分の中で、もう全部役作りができてる」って。もちろん初日だけは「この段階はどれくらいの感じか?」というのをすり合わせましたけど、その後はほとんどなく、順撮りじゃないのに間違えることもないんですよね。そこまで役に入り込んで自分のものにしていて。僕は現場でもあんまり……もちろん少しは「こうしてください」っていうことは言ったんですけど、ほとんど言わなかった。僕は演出をしていて楽しくてしょうがなかったです。演技を見せてもらうことが楽しくてしょうがなかったし、本当に物語を理解してくれていて嬉しかったんですよね。「こういう風に演じてほしいな」っていうところをちゃんと、そう演じてくれていて。「分かってくれているな」っていうのがとても嬉しかったというのが全体的な思いですね。

『長いお別れ』©2019「長いお別れ」製作委員会 ©中島京子/文藝春秋

―前作『湯を沸かすほどの熱い愛』(2016年)や今回の『長いお別れ』は、家族団らんのシーンが特に印象的でした。どこの家庭にもあるような場面だとは思いますが、そこにとてもほっこりする。監督にとって、そういったシーンは家族の原風景として意図的に描かれているのでしょうか?

中野:いつも「家族ってなんだろう?」という思いで映画を撮っているんですが、僕は「家族とはなにか?」に定義はないと思っているんです。それはもういろんな家族があって、決まった家族の形なんか絶対にないと。ただ定義に近いものはあって、それは「食卓を一緒に囲む人だ」って思ってるんですね。定義ではないけれども、それに近いものだと思っていて、だから僕は必ず食卓を囲むシーンを撮るんです。生きる行為、一緒に食卓を囲んで食べるということが一番、家族っていうものに近いのではないか? っていう自分の思いがあるので、あえて必ず撮るんです。

絶対に“届く”ものしか作らない、それがモチベーション

『長いお別れ』©2019「長いお別れ」製作委員会 ©中島京子/文藝春秋

―本作の舞台は多摩や新百合ヶ丘あたりだと思いますが、新百合ヶ丘は監督が映画学校に通われていた地域ということで、学生時代の思い出がよみがえってくるようなことはありましたか?

中野:学生時代というより、いま僕は撮影をしたあたりに住んでいるんですよ。例えば、土手のシーンなんかは本当にいつも行っているようなところで。土手の後ろに大きなマンションがあって、引いたら後ろが全部マンションになるという画を「いつか使ってやろう」って、ずうっと思ってたんですね。それが今回、ついに使うことができた。あそこって、部屋の一つ一つに家族がいるわけですよ。その前で家族の演技があるっていうのが、僕はどうしてもやりたくて。ずっと狙っていて、やっと実現したところだし、基本的には「僕の知ってる身近なこのあたりを舞台にしよう」と思って本を書いていたので、結構、知っているところを使ってます(笑)

―『湯を沸かすほどの熱い愛』が商業的にも成功し、今後オファーもどんどん増えていくと思います。映画を作るうえで、監督にとってモチベーションになる要素を教えてください。

中野:結局、作って観てもらって届いたときの「あの感覚」というのが、やっぱりとても嬉しいんですよね。だからこそ絶対に届かせる、届くようなものしか撮らない、と決めていて、そこが一番のモチベーションだと思います。こんなこと言っちゃ駄目ですけど、僕は特別に映画少年でもなんでもなかったので、「撮りたい!撮りたい!」というタイプでも全然なくて。作ったものをちゃんと伝えて、それがみんなの思いの中で……観たら前向きになれる映画というか、「ああ、よかったな」と思える映画を撮りたいという思いが強いので、そこですかね。あとは身近な人を喜ばせたいというのもある。自主映画の頃から、映画を撮ったときにスタッフとキャストがこぞって「自分の家族に見せたい」って言って映画館に家族を連れてきて、それが本当に嬉しかったんですよね。だから“作った人たちが自分の家族に見せたいもの”が作れたら勝てると思ってるんです。それが『チチを撮りに』(2012年)という映画で、すごく評価をいただいて後々につながってくるんですけど。みんなで作って自分の家族たちにも見せられる映画を作って喜んでもらおう、そうすればきっと日本だけじゃなくて、世界でもみんなが見せたくなる映画になるんじゃないかなと。そこが一番のモチベーションだと思います。そうじゃなかったら僕、こんなしんどいこと嫌です(笑)。

―以前“家族以外のテーマ”にチャレンジしたいとおっしゃっていましたが、今後やってみたい企画やテーマはありますか?

中野:人間ドラマだったらなんでも挑戦したいですね。恋愛ものであろうと犯罪ものであろうと、ちゃんと人間を描くものであれば、やれる自信はあるので。今は「これなら負けないよ」というのが家族ものというだけで、他にも自信がついてやれるならやりたいなとは思っています。

『長いお別れ』©2019「長いお別れ」製作委員会 ©中島京子/文藝春秋

―最後に、これから映画をご覧になる方にメッセージをお願いします。

中野:この映画は認知症を扱った映画です。でも、スタッフやキャストと話していたのは「新しい認知症映画を作ろう」ということでした。認知症映画と聞くと、暗くて、ちょっとつらい内容なんじゃないかなと思われるかもしれない。もちろんそういう部分はありますが、笑えるし、温かい気持ちになるし、そういう認知症映画ってあんまりなかったと思うんですね。僕らとしては、新しい、今の時代の認知症映画を作ったという自負があります。だから楽しみに観に来ていただければいいなと思っています。

『長いお別れ』は2019年5月31日(金)より全国ロードショー

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『長いお別れ』

だいじょうぶ。記憶は消えても、愛は消えない。
認知症でゆっくり記憶を失っていく父との、お別れまでの7年間。笑って、泣いて、前に進んでいく家族たちの、新たな愛の感動作!

制作年: 2019
監督:
出演: