まるで「社会ど底辺のランボー」
本国では賛否両論の嵐というだけあり、俺自身も鑑賞後しばらく思考回路が停止した。
悲劇なのか喜劇なのか……
幸せとは何なのか……
家族とは何なのか……
ネタバレしたくて仕方がないが、がっつり書いてしまうとBANGER!!!さんだけでなく色んなところにも迷惑がかかるのでやめておく。
個人的に、本作は“高速道路父さん”ことギウに対して何を感じるかが論点の分かれ道かと思う。
自分自身生きてきて思うが、社会で生活する以上「我慢」が大切だ。どんな生き方をしていても、つらいことはある。仕事が嫌になって辞めるのは自由だが、すぐに辞めてばかりいると、どんどん働ける間口は狭まっていく。これはどの国でも同じだろう。
しかし、ギウはというと大学卒業後、職を転々として、最終的に詐欺まがいの投資にまんまとハマり、無一文に。被害者たちから恨まれ、社会復帰は絶望的な状況になっている。
ギウは家族を守ることができていない。ギウの置かれた状況だと、家族のために別れるべきだ。それでも格好つけたくて家族、身重の妻や幼い子供たちにも苦しい生活を強いている。はっきり言ってしょうもない男だ。
現実にいたら好きにはなれない人種だが、これは映画。全てを失ってからのギウは絶好調だ。奇声を発し、号泣し、顔や手をぐちゃぐちゃにしながらスーパーや屋台で万引きした食料を貪る。
山に籠り顔に泥を塗りたくるギウの姿は、まるで「社会ど底辺のランボー」だった(あれが泥なのかう〇こなのか何度考察してもわからない。というか泥であって欲しい。マジで!!)。
田舎町を混乱に陥れたランボーは戦場では優秀な軍人だったが、ギウは色んなことから逃げ続けたくだらない男。彼が溜め込んだ負のエネルギーがついに爆発し、周囲を巻き込んでいく。
ある意味「ファイヤーブースト」な衝撃作
終盤、口からよだれを垂れ流し、泥まみれの姿で家族のもとにやってくるギウ。「家族を返せ!」と泣きわめくが、それは家族を想う父親の姿ではなく、まるでダダをこねる子供だ。その身勝手さにより、とんでもない事態になる。
みじめで痛々しいが、主演のチョン・イルの迫真の演技によってエンターテインメントになっている。生半可ではない、なんならチョン・イル自身が撮影にあたって多額の負債を抱えて家も失ったのでは、と心配になるほどの情緒不安定さだった。観た人にとって捉え方が分かれるであろうエンディングは強烈な後味を与える。
というわけで、カーチェイスもないしビキニで踊るお姉さんも出てこないが、奇声を発してトマトを貪るお父さんはある意味ファイヤーブーストしている本作。俺自身もそうだが、観た後に話し合いたくなる作品だ。
映画仲間と一緒に観たいと思うだろうが、『ワイスピ』の新作とウソをついて無理やり見せたらギウばりに社会から追い出されてしまう可能性がある。気をつけろよ。
文:デッドプー太郎
『高速道路家族』は2023年4月21日(金)よりシネマート新宿ほか全国順次公開
『高速道路家族』
テントで寝て、夜空の月を照明として暮らすギウ(チョン・イル)と3人の家族。彼らは、高速道路のサービスエリアを転々とし、再び遭遇することのない訪問者に2万ウォンを借りながら食いつないでいる。ある日、すでにお金を借りたことのあるヨンソン(ラ・ミラン)と別のサービスエリアで再び遭遇してしまう。不審に思ったヨンソンはギウを警察に届け出る。ヨンソンは残されたギウの妻ジスク(キム・スルギ)と子供2人を放っておけず、家へ連れて帰り一緒に暮らすことになるが……。悲劇か喜劇か?本国では賛否両論の嵐を巻き起こしている想像もつかない衝撃の結末を、目撃せよ――!
監督・脚本:イ・サンムン
出演:チョン・イル ラ・ミラン
キム・スルギ ペク・ヒョンジン
ソ・イス パク・ダオン
制作年: | 2022 |
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2023年4月21日(金)よりシネマート新宿ほか全国順次公開