キアヌ主演のSF作品は、いつだって挑戦作である
キアヌ・リーヴスが出演したSF映画は、超大作・低予算作品を問わず、斬新な映像表現や鋭いテーマに挑んだ野心作が揃っている。
映画界に一大センセーションを巻き起こした『マトリックス』3部作(99~)はあまりにも有名なので割愛するが、例えばウィリアム・ギブスンの短編「記憶屋ジョニィ」を映画化した『JM』(95)では、インターネットの世界<サイバースペース>をいち早くビジュアル化しており、ある意味『シュガー・ラッシュ:オンライン』(18)の一歩先を行っている作品だった。
石油に代わる新エネルギー開発の陰謀に巻き込まれる『チェーン・リアクション』(96)は、一見『スピード』(94)路線のアクション映画のようでいて、画期的な発明が世の中に混乱を引き起こす可能性があることを考えさせられる作品でもあった。
フィリップ・K・ディックの小説「暗闇のスキャナー」を映画化した『スキャナー・ダークリー』(06)では、行き過ぎた監視社会と危険なドラッグが認識障害・人格崩壊を引き起こす過程を、ロトスコープの技法を駆使して悪夢的に描いてみせた。
そして古典SF映画をリメイクした『地球が静止する日』(08)は、オリジナル版の反戦というテーマから、環境問題に焦点を当てる大胆な改変を行っている。
いずれも10年、あるいは20年近く前の作品だが、物語で描かれるテーマは、全て現代社会で話題になっているものばかりではないだろうか。そして今回、キアヌが主演と製作を兼任した意欲作『レプリカズ』で挑んだ題材はと言うと、近年物議を醸しているクローン技術である。
キアヌの決断に「ツッコミたくなる」そこが、問題提起のキモ!
キアヌが演じるのは、人間の意識をデータ化して別の体に転送する研究に従事している神経科学者のウィリアム・フォスター。事故で死んだ妻と子どもたちを蘇らせるため、ラボの実験装置を盗んで妻子のクローンを作成し、遺体から抽出した意識を転送して蘇生するという、常軌を逸した行動に出る。普通ならモラルと家族愛の狭間で葛藤するところだが、本作のキアヌはほとんど迷わず妻子の蘇生を実行する(これが“暴走科学者”たる所以でもある)。
あまりの迷いのなさ、あるいは割り切りのよさにツッコミを入れたくなる方も多いのではないかと思うが、そのツッコミたくなる部分こそが作り手側からの問題提起なのだと筆者は考える。「科学vs倫理」というSF定番のテーマに加え、「人として守ることと、父親としてやることはどちらを優先すべきなのか?」「家族4人のうち3人しか助けられないとしたら、全員を諦めるべきか?それとも苦渋の選択をすべきなのか?」「そもそも事故で死んだ家族たちはクローン再生を望んでいたのだろうか?」…というように、ウィリアムが直面する問題を通して、即答するのが困難な質問を投げかけてくるのである。時に愛おしさすら感じさせる暴走化学者キアヌの活躍を見届けつつ、「あなたが同じ立場ならどうするか?」という作り手側からの問いかけに、是非自分なりの答えを見つけて頂きたいと思う。
近未来的なサウンドトラックの根底にあるのは、家族愛
本作の音楽を担当したのは、『ザ・ウォード/監禁病棟』(10)や『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場』(15)などで知られる南アフリカ出身の個性派作曲家マーク・キリアンと、プエルトリコ出身の作曲家ホセ・“ペペ”・オヘダの二人。筆者は今回サントラ盤ライナーノーツの中でキリアンにインタビューを行っているが、彼は「この映画は家族の物語」と語っていた。つまりウィリアムの暴走の根底には強い家族愛があるということが、音楽を通してきちんと描かれているのである。「オーケストラ+シンセサイザー」の未来的でメロディアスな音楽の中から、キアヌが演じた科学者ウィリアムの家族への愛情や、幼い娘ゾーイの存在を感じ取って頂ければ幸いである。
文:森本康治
『レプリカズ』は2019年5月17日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
『レプリカズ』
その発明は、大罪か?奇跡か?
愛する家族を守るため、科学者の戦いが、今はじまる!
制作年: | 2017 |
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監督: | |
出演: |