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「信仰に殉じた殺人鬼」が称賛される恐怖『聖地には蜘蛛が巣を張る』イラン娼婦連続殺人事件を描いた痛烈批判スリラー

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「信仰に殉じた殺人鬼」が称賛される恐怖『聖地には蜘蛛が巣を張る』イラン娼婦連続殺人事件を描いた痛烈批判スリラー
『聖地には蜘蛛が巣を張る』©Profile Pictures / One Two Films
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淡々と描かれる女性軽視、蔑視、虐待

ニュースでもよく報じられているとおり、イランは女性に対してかなり“酷い”。2022年、ヒジャブを“適切に”着用していなかった22歳の女性が道徳警察に逮捕・暴行され、後に謎の死を遂げていたり、女子校に毒ガスを撒いたりと信じられないことばかり起こっているのだ。

本作では、そんな女性軽視、蔑視、虐待が淡々と描かれる。非常に恐ろしいし、気が滅入る。さらに恐怖を感じるのは、スパイダー・キラーの浄化思想に同調する市民が大量に登場すること。これは意外でも何でもなく、イスラム教的には正しいことなので問題ないのだ。本作のモデルとなった、2000年初頭に16名の女性を殺害した実在の殺人鬼にも同調者がいたことが、それを証明している。イランでは一般倫理は通用しないのだ。

『聖地には蜘蛛が巣を張る』©Profile Pictures / One Two Films

『聖地には蜘蛛が巣を張る』はイラン・イスラム共和国の、『アルゴ』(2012年)で描かれたような状況と大差ない、時代遅れな様子を徹底的に醜悪に描ききる。絞殺シーンをやたらとリアルに描いているのも、イスラムの教えに殉じようとするスパイダー・キラーの行為の残酷さを際立たせるためだろう。

『聖地には蜘蛛が巣を張る』©Profile Pictures / One Two Films

「イラン映画は、政府が望んだ姿を見せているに過ぎない」

監督のアリ・アッバシはイラン生まれ。現在はデンマーク在住ながらイラン国籍のまま、マタニティホラー『マザーズ』(2016年)や“異種”のギャップを描いた『ボーダー 二つの世界』(2018年)を制作してきた異端児だ。

彼は、本作の目的の一つとして「女性の体をとりもどすこと」と述べている。さらに「いま流通しているイラン映画は、政府が望んだイランの姿を見せているに過ぎない」、その上「イランが行っている検閲行為は卑劣」とバッサリ切り捨てており、反勢力には厳しいイスラム界から命を狙われるのではないか? と心配になるほどだ。

『聖地には蜘蛛が巣を張る』©Profile Pictures / One Two Films

映画後半、スパイダー・キラーとその家族の絶望的な言動に眩暈を覚える。宗教とは人を救うものではなかったのか? 一体、信仰とは何なのか? 頭を抱えながらエンドクレジットを見つめて欲しい。

文:氏家譲寿(ナマニク)

『聖地には蜘蛛が巣を張る』は2023年4月14日(金)より新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷、TOHOシネマズシャンテほか全国順次公開

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『聖地には蜘蛛が巣を張る』

聖地マシュハドで起きた娼婦連続殺人事件。「街を浄化する」という犯行声明のもと殺人を繰り返す“スパイダー・キラー”に街は震撼していた。だが一部の市民は犯人を英雄視していく。事件を覆い隠そうとする不穏な圧力のもと、女性ジャーナリストのラヒミは危険を顧みずに果敢に事件を追う。ある夜、彼女は、家族と暮らす平凡な一人の男の心の深淵に潜んでいた狂気を目撃し、戦慄する——。

監督・共同脚本・プロデューサー:アリ・アッバシ
出演:メフディ・バジェスタニ ザーラ・アミール・エブラヒミ

制作年: 2022