ホームセンターは“武器”になる商品で溢れている
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2014年の映画『イコライザー』は、1985年のTVドラマ『ザ・シークレット・ハンター(原題:THE EQUALIZER)』のリメイク映画だが、「元CIA工作員の男が、人知れず世直しをする」という設定以外は豪快にアレンジされている。
まず、舞台はオリジナルドラマ版のニューヨークからボストンに変更。ドラマ版では優雅な英国紳士だった主人公マッコールの設定も、しがないホームセンターの従業員に変更された。これらの変更は脚本家リチャード・ウェンクによるもので、ホムセン従業員にした理由をウェンクはこう語っている。
身分を隠して生きる、殺しのスキルを持つ元CIA工作員にとって、ホームセンターは“武器”になる商品で溢れている武器庫のような場所だ。もしも、自分の身に危険が降りかかった時には、それらの商品を武器にして戦えば良い。
アクション映画ファンなら心の底からグッとくる理由だが、ウェンクの脚本には「どんな日用品を武器にするか」という映画の見せ場になる部分や、マッコール自身のキャラクターがあまり書き込まれていなかった。そこで主演のデンゼル・ワシントンとアントワーン・フークア監督らと共に、物語の設定をさらに練り込む必要があった。
監督の友人の特殊部隊の隊員たちに会って、彼らがやってきた秘密任務の話をたくさん聞いたよ。そこからマッコールの過去の話を考えたが、映画では使わなかった。当初から続編で少しずつ明かそうと思っていたから。
そうウェンクが語るように、マッコールの過去は2作目『イコライザー2』(2018年)で少しだけ明かされた。おそらく2023年9月公開予定の『イコライザー』3作目では、さらに突っ込んで描かれるのではないだろうか。
デンゼル自らリサーチ! 強迫性障害を抱えたマッコールの人物像
彼らが取材した特殊部隊出身者の中にいたのが、海軍特殊部隊ネイビーシールズからDEA(アメリカ麻薬取締局)のエージェントを経てスタントの世界に来たキース・ウーラード。彼は、その豊富な戦闘経験を買われて本作の武術指導となった。
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— ISA Stunts (@ISAstunts) April 15, 2017
そして特殊部隊出身者たちを取材していく中で、ワシントンはこう考えるようになる。
長い間、暴力の世界にいたロバート・マッコールは平和に生きるため、自分の中の暴力衝動を抑え込んでいるはずだ。それならば、精神的に重い症状を抱えているだろう。
彼は独自にリサーチをして、「マッコールはハードな強迫性障害になっている」というアイデアを出した。このプランにフークアが賛同した結果、マッコールは不眠症、限度を超えた几帳面、そして何でも時間を計らないと気がすまないが、それらの症状を鋼鉄のような冷静さでカバーしている、という個性的すぎる人物になった。
そんなキャラクターを演じるため、ワシントンは実際の強迫性障害を取材し、彼らの挙動を正しく演じるようにした。さらに「マッコールは合理性を求める人物で、それはファッションにも反映される。だから彼は毎日、ヘアスタイルのちょっとした乱れを気にするようなことはない」という考えからマッコールの頭髪をスキンヘッドにし、服装も街を歩いていても決して目立つことがない地味な服にした。完全にプロの殺し屋と同じ発想である。
そんな役作りによって、オリジナルのTVドラマ版以上に主人公の「世を忍ぶ仮の姿」と「殺人マシン」のギャップを生み出すことに成功。つまり、この映画の「ナメてた相手が、実は殺人マシンでした」度を極限まで高めたのである。
ちなみに「何でも時間を計る」マッコールが敵を倒す際の処刑タイムを計る腕時計は、SUUNTOのコア・オールブラック・ミリタリーがベースになっている。
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— The Equalizer (@TheEqualizer) December 25, 2018
「皆さんなら、このホームセンターで売っている商品を使って、どんな殺し方をします?」
ロバート・マッコールのキャラクターは決まった。次は、本作の売りとなる「マッコールの戦闘スタイル」を決めなければならない。
『ザ・シークレット・ハンター』のアクションのメインは毎回、主人公が自宅の武器庫に保管された大量のウェポンからチョイスした銃を使って戦うガンアクション。しかし、ワシントンやフークア監督は、そんなオリジナル版の見せ場を全面的に廃止。武術指導のキースたち特殊部隊出身者から聞いた、「特殊部隊で訓練を受けた者なら、その場にある日用品を武器にして相手を殺すことができる」という発言を参考に、マッコールのメインウェポンを“戦闘スキル”にすることにした。
特殊部隊出身者の意見が最も参考になったシーンがクライマックス、ホームセンターで繰り広げられるマッコールVSロシアン極道の傭兵部隊の戦闘シーンだ。しかし、脚本には「マッコールは、ホームセンターにある日用品を使って一人、また一人と殺してゆく」程度しか書いておらず、具体的に「どんな日用品を武器に変えるのか」が書かれていなかった。
そこでフークア監督は、キースら特殊部隊出身者を実際のホームセンターに連れて行き、「皆さんなら、このホームセンターで売っている商品を使って、どんな殺し方をします?」という、他の客が聞いたらドン引きするような質問をしたという。すると、
「この枝切りバサミなんて敵を刺し殺すのに良いんじゃない?」
「ハンマーで撲殺もできるよ」
「電動ドリルや釘打ち銃も簡単に人が殺せるね」
「有刺鉄線で罠を作って、敵の首を吊ることができるよ」
「電子レンジと洗剤があれば爆弾ができるよ」
……といった物騒なプランをたくさん拝聴でき、実際に映画の戦闘シーンに採用。こうして『イコライザー』名物となる、日用品を使って悪党を処刑するDIY戦法が誕生した。劇中のマッコールはホームセンターの商品だけでなく、本、コルク抜き、ショットグラス等も武器にしてしまう。
ちなみにアメリカで最もウケたDIY戦法シーンは、マッコールが単身訪れたロシアン極道の事務所で、グロック17やナイフで武装した5人の構成員をわずか19秒で殺すシーンで披露する、コルク抜きを相手のボディや顎にズブズブ刺す場面だという。